日本乳腺人工知能研究会へのご質問

 乳房再建(エキスパンダーやインプラント挿入)後にリンパ節転移が判明した場合、これらを抜去して治療を行うのが原則でしょうか? また、挿入したまま抗がん剤や放射線治療を受けることは可能ですか?

乳房再建を実施されており、リンパ節転移が発覚したからといってエキスパンダーやインプラントの抜去が必須であったり、抗がん剤治療ができないということはありません。むしろリンパ節転移の状況を含めたステージの状況に応じて、抗がん剤等の薬物療法を早い段階で実施いただくのが適切かと考えます。

また、エキスパンダーやインプラントを挿入している状況で、放射線治療が決して無理ではありません。ただし、エキスパンダーを挿入した状況に関しては、放射線治療を行うと、再建失敗や被膜拘縮などの合併症が増加し、結果的に整容性の低下を引き起こす可能性が研究報告されております。また、エキスパンダーには生理食塩水を注入する金属ポートが内蔵されておりますが、これが原因で放射線治療の量が不均一となる可能性も研究報告されております。よって、エキスパンダー挿入中の放射線治療はできれば避けたいところと考えます。もし担当医より放射線治療の提案があった際は、まずは抗がん剤による治療を実施いただき、エキスパンダーによる約半年間の皮膚拡張後にシリコンインプラントへ入れ替え、放射線治療へお進みいただくというのも一案と思います。一方で、乳がんの治療に専念したいので再建自体を中止としたいという希望がある場合、主治医の先生へ今のお気持ちをお伝えいただき今後の方針をお決めいただければと思います。

ステージ0(非浸潤がん)と診断されましたが、手術方法として『乳房全切除(全摘)』を勧められる場合と、『乳房温存手術(部分切除)』が選択可能な場合があるのはなぜですか?その判断基準を教えてください。 

乳がんの手術には全摘(乳房全切除術)と部分切除があり、乳房内の進展具合によって手術の方法(術式)を決めていきます。大事な点としては、ステージ0の早期乳癌≠部分切除手術ではないことです。乳がん手術の方法は、乳房内における乳がんの広がり程度によって決まるため、ステージ0であっても乳房内のがんの広がりによっては乳房全切除(全摘)が必要となる可能性があります。

乳房組織は、乳管という管の中で枝分かれして広がっていきますが、がん細胞が乳管内に限局して広がっていくことを“非浸潤性乳管癌”と呼び、ステージは0とみなされます。どれだけ乳管内で癌が広がっていてもステージは0となります。全摘か部分切除を決めるのは、乳房の中でどれくらい癌が広がっているかどうかであり、どちらの手術も顕微鏡で見える範囲(病理学的診断)の乳がんをしっかり取り切ることにあります。一方で、癌の十分な切除が行われず切除で癌露出を認め取り残しがある場合、今後の局所再発率につながることがわかっております。なお、乳房再建術を希望される場合、乳房全切除(全摘)の適応となるため、まずは主治医の先生へ今のお気持ちをお伝えいただき手術方法の方針を十分にご相談いただければと思います。

脇のリンパ節転移が3個以下の場合、放射線治療を行わなくても良いとされるのはなぜですか?どのような基準で判断されるのでしょうか

脇のリンパ節転移について4個以上の場合は乳房全切除術後に放射線療法を実施いただくことは、局所・領域リンパ節再発の減少ならびに生存率の改善がみこまれることから標準治療とされます。一方、リンパ節転移1〜3個について、放射線治療を行うことについてまだ議論があるところです。本邦における乳癌診療ガイドラインの現状としまして、腋窩リンパ節転移1〜3個において術後放射線療法の推奨度は“弱”であり、“放射線療法を検討するが一部の症例ではリスクを総合的に評価した上で選択される“とされます。一方、米国のガイドラインにおいて、1〜3個の場合において術後放射線療法は検討されますが、一部では局所再発のリスクが低く、乳がんの病理学的な悪性度などを考慮して、行うかどうか検討してくださいという位置付けとなっております。よって、わきのリンパ節転移3個以下の場合では、そのほかに乳がんの悪性度や性質がどういったものでどの程度の再発割合が見積もられるかを主治医の先生へお訊きいただき、術後放射線治療を行うかどうかをご相談いただくのがよろしいかと考えます。

手術中のセンチネルリンパ節生検で転移が判明した場合でも、あらかじめ予定していた『乳房同時再建』をそのまま進めることはありますか? 転移が見つかったら再建は中止になるのでしょうか?

手術中のセンチネルリンパ節に転移があったとしても、乳房同時再建を行うことはしばしばあります。リンパ節に転移があった場合、術後に放射線治療を行う必要性がありますが、放射線治療を行うことによって皮膚の拘縮や合併症が増えることがわかっており、再建後の仕上がりが悪くなる(“整容性の低下”と呼びます)恐れがあります。脇のリンパ節転移4個以上や腫瘍径5cm以上(リンパ節転移の有無を問わない)の時は、術後放射線治療を受けることによって、局所・領域リンパ節再発の減少ならびに生存率の改善がみこまれることから標準治療とされ、このような場合、術後放射線治療に伴う合併症や整容性の低下を極力回避するため、同時乳房再建は敬遠される傾向にあります。一方で、脇のリンパ節転移が1〜3個の場合に、術後放射線治療を行うかどうかについてはまだ医師間でも議論があり意見が分かれるところです。本邦における乳癌診療ガイドラインの現状としまして、腋窩リンパ節転移1〜3個において放射線療法の推奨度は“弱”であり、“放射線療法を検討するが一部の症例ではリスクを総合的に評価した上で選択される“とされます。また、米国のガイドラインにおいて、1〜3個の場合において放射線治療は検討されるが、一部では局所再発のリスクが低く、乳がんの病理学的な悪性度などを考慮して放射線治療を行うかどうかは検討してくださいとなっております。このように、脇のリンパ節転移が1〜3個の場合は、手術中のセンチネルリンパ節生検で転移が判明しても1〜3個以内のリンパ節転移であれば乳房同時再建を進め、手術後の病理診断結果(癌の悪性度やステージ、乳癌のサブタイプなど)をもとに、術後放射線療法を行うかどうか主治医と相談して決まることが多いと思われます。

遺伝子検査でBRCA遺伝子に病的バリアント(変異)があると診断された場合、生涯でがんになる確率はどの程度でしょうか? また、予防的な切除を行わない場合の再発・発症リスクや、子供への遺伝について教えてください。

BRCA遺伝学的検査で陽性(病的バリアントあり)とみなされた場合、生涯的に乳癌に罹患する可能性は4〜8割と研究報告によってばらつきがありますが、少なくとも日本人一般女性の罹患率である10.6%と比較すると明らかに罹患する可能性が高いことがわかっております。なお、遺伝性乳がんは正式名称で“遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)”と呼ばれるように、卵巣がんに罹患する確率も高くなることがわかっております。

反対側乳房の予防切除を行なわれない場合、がんを早期に発見できるように画像検査を中心とした定期的な診察を行なっていくのが一般的です。これを“サーベイランス”と読んでおり、特に乳がんのサーベイランスでは乳房造影MRI検査の効果が明らかとなっていることから、HBOCの方は、早期にがんを見つけるために毎年の造影MRIを実施いただくことが推奨されます。HBOC患者さんの中には、予防切除が推奨されるのはわかっているけれども反対の乳房の切除までは受け入れられないという方もいらっしゃいます。乳がんのサーベイランスをどのようなタイミングでしていくのが良いか主治医の先生とご相談してみてください。

またご両親のうち片一方のみがHBOCであった場合、お子さんへと遺伝する確率は半分であります。よって、お子さんに必ずしも遺伝しているとは限りません。お子さんがBRCA1/2遺伝学的検査をお受けいただくかどうかですが、お子さんが乳癌の発症およびある特定の条件がない限り残念ながら現在の保険診療下ではBRCA1/2遺伝学的検査をうけることができません(卵巣がん・卵管がん発症の場合は全例でBRCA1/2検査を受けることが保険診療上可能です)。お子さんには、ご自身が乳癌の既往をお持ちであることを前提に、早い段階から検診/健診などで乳房の検査をしていただくことをおすすめします。

また、お子さんへご自身がHBOCであることをお伝えするときに、子供の成長・発達の過程を考慮することが必要となります。伝える前に、自分が伝えたいことを書き出したり、子供がどのような反応をするか予測するなどと事前にシミュレーションを行うのもよいです。ただ伝え方がわからない、どのように子供の反応に対応したらよいかなどわからないかもしれません。伝え方にお困りの際は、HBOCや小児の心理に詳しい専門家がご相談にのることが可能です。まずかかりつけの病院でそのような相談する診療体制があるかどうか確認してみてください。