【学術紹介】放射線と併用した温熱療法に関する最近の前臨床研究

学術紹介

放射線と併用した温熱療法に関する最近の前臨床研究

伊藤 誠*

愛知医科大学 放射線科

温熱療法(Hyperthermia)と放射線治療の併用の有用性は古くから知られたところである1).両者の併用は①放射線抵抗性であるS期細胞は温熱に高感受性を示し,②温熱により放射線抵抗性である低酸素がん細胞に酸素供給が進み,さらに,③温熱は放射線によるDNA損傷に関与する修復タンパクの機能を阻害する等多くの利点がある.一般に,放射線療法後の温熱療法が効果的であるが,42.5 ℃以上であれば,温熱前処理でも併用効果が期待できるなど両者の併用は合理的と言える.最近,デンマークのAarhus University 病院のHorsman教授らのグループが温熱と放射線の両者併用に関する前臨床研究成果を発表したので紹介したい.

ひとつは,X線または陽子線を用いた寡分割照射(分割回数を減らし単回線量を増やした治療法)#1と温熱療法を併用した際の増強効果を前臨床モデルで包括的に評価した初めての研究である2).寡分割照射は照射回数を減らせる利点があるが,再酸素化の可能性が低下し,高線量照射による腫瘍血管破綻のため放射線抵抗性の低酸素細胞を増加させる可能性があるため,新たな増感手法との併用が求められる.研究目的は,X線と陽子線による寡分割照射と温熱療法の至適併用条件を決定し,単回温熱処置の効果,放射線分割,および両治療法間の時間間隔を最適化することである.特に,腫瘍制御の最大化と正常組織損傷の最小化を目指した.実験方法では,12-16週齢雄性CDF1マウスの右後足にC3H乳癌細胞を移植し,寡分割照射(5,10,15 Gyを3分割で3-4日間隔)を実施した.温熱療法は40.5-42.5 ℃で60分間,最終照射後30,90,180分の間隔で実施し,腫瘍増殖遅延#2と急性皮膚湿性落屑#3について調べられた.また,3×10 Gy照射24時間後のDNA損傷(γ-H2AXフォーカス形成)#4と最終照射1時間後の腫瘍低酸素状態をピモニダゾール染色#5により評価した.結果は,X線と陽子線は同様の効果を示し,温熱療法は温度が高いほどかつ時間間隔が短いほど効果が大きかった.42.5 ℃,30分間隔での温熱増強比(TER)#6は腫瘍でX線1.53,陽子線1.60を示した.正常皮膚のTERはX線1.23,陽子線1.17と低く,治療効果比(TGF)#7はそれぞれ1.24,1.36となった.DNA損傷評価では42.5 ℃処理により重篤な損傷核が有意に増加し,低酸素分画は両照射法で減少した.結論として,寡分割照射と単回温熱療法の併用は42.5 ℃,30分間隔で治療利益をもたらし,X線と陽子線は同等の効果を示すとされた.温熱療法の主な作用機序は短時間間隔ではDNA修復阻害,長時間間隔では低酸素細胞への直接細胞毒性と考えられた.本研究はX線と陽子線による寡分割照射と温熱療法の併用について,温度,時間間隔,放射線種を系統的に比較した初の包括的前臨床研究として高く価値される.陽子線と温熱療法の併用効果についてのデータが限られている中で,X線と同等の効果を示したことは臨床的に重要な知見である.ただし,単一腫瘍モデルでの検討に留まっており,異なる組織型や部位での効果検証,ならびに分割回数や線量の最適化についてのさらなる研究が必要であり、加えて,温熱の直接的な細胞影響の詳細なメカニズムの解析も今後の課題であろう.

もうひとつは,再発マウス腫瘍および正常皮膚における再照射#8と温熱療法の前臨床研究である3).この研究は,再発腫瘍に対する再照射と温熱療法の併用効果を前臨床モデルで系統的に評価した初めての包括的研究である.再発癌治療では正常組織の放射線耐容性が問題となるため,治療効果を維持しながら副作用を軽減する戦略が求められる.目的は,正常組織と再発腫瘍に対する至適な初期照射線量を決定し,再照射と温熱療法併用時の放射線増感効果を定量的に評価することである.さらに,治療効果比(TGF)を算出し,腫瘍制御と正常組織毒性のバランスも検討された.実験では,10-14週齢の雄性CDF1マウスを用い,右後足にC3H乳癌細胞を移植した再発腫瘍モデルが用いられた.初期実験で正常皮膚には30 Gy,腫瘍には40 Gyの初期照射線量を設定し,30日後に再照射を実施した.温熱療法は42.5℃で1時間,再照射30分後より開始した.皮膚反応は急性皮膚毒性スコア(0.5-3.5)で評価し,腫瘍制御は90日間の観察期間で判定した.結果は,再照射による皮膚障害のMedian Damaging Dose(MDD)₅₀#9は25 Gyであったが,温熱療法併用により18 Gyに減少し,熱増強比(TER)1.4を示した.これに対し,腫瘍制御では,Tumor Control Dose (TCD)₅₀#10が再照射単独の49 Gyから温熱療法併用で29 Gyに著明に減少し,TER 1.7を達成した.これによりTGF 1.2が得られ,温熱療法が腫瘍により選択的に効果を発揮することが示された.興味深いことに,単回照射のTCD₅₀は54 Gyであったので,再照射の方が効率的であることが判明した.しかしながら,重要な課題として,温熱療法併用群47匹中23匹(48.9%)が治療関連毒性により研究から除外された点が挙げられる.このうち6匹が死亡,13匹が重篤な皮膚反応または20%以上の体重減少により安楽死となった.この高い脱落率により高線量域での完全な線量反応曲線を得ることができなかった.また,30日間隔での評価のため,正常組織の完全な回復は評価されておらず,より長期の観察が必要である.結論として,温熱療法は再照射の治療効果を有意に増強し,特に腫瘍に対してより大きな増感効果を示すことが証明された.本研究は再照射と温熱療法併用の影響を正常組織と腫瘍の両面から初めて評価した点で高い新規性が認められる.他方で,臨床応用には慎重な線量最適化と厳密な安全性監視が不可欠となる.また,単一腫瘍モデルでの知見のため,組織型の違いを含めた検証や分割照射・免疫療法併用など臨床に即した前臨床研究も求められる.

参考文献

  1. Hill S.A., Denekamp J.: The response of six mouse tumours to combined heat and X rays: implications for therapy. Br J Radiol, 52: 209-218, 1979.
  2. Folefac C.A., Sinha P.M., Bassler N., Sitarz M.K., Mortensen D., Busk M., Qian H., Krawczyk P.M., Oei A.L., Elming P.B., Horsman M.R.: Pre-clinical studies investigating the combination of hypofractionated radiation with hyperthermia in a murine tumor and normal skin. Int J Hyperthermia, 42: 2545400, 2025.
  3. Folefac C.A., Sinha P.M., Bassler N., Sørensen B.S., Horsman M.R.: Preclinical study of reirradiation with hyperthermia in recurrent murine tumors and normal mouse skin. Acta Oncol, 64: 972-978, 2025.

用語解説

#1寡分割照射: 従来の30-33分割(1.8-2 Gy/回)より少ない分割数で高線量を投与する放射線治療法.技術進歩により精密照射が可能となり採用が増加している.

#2 腫瘍増殖遅延(Tumor Growth Delay): 治療後の腫瘍が初期体積の3倍に到達するまでの時間.放射線治療効果の前臨床評価で標準的に使用される指標.

#3 湿性落屑(Moist Desquamation): 放射線による急性皮膚反応の重度な症状.表皮の完全剥離により真皮が露出し,滲出液を伴う状態で正常組織耐容性の指標.

#4 γ-H2AXフォーカス: DNA二重鎖切断が生じた際に形成される修復タンパク質の集積点.放射線によるDNA損傷の定量的評価に用いられる重要なバイオマーカー.

#5ピモニダゾール染色: 低酸素環境でのみ代謝される化合物を用いた組織化学染色法.腫瘍内の低酸素領域を可視化し, 低酸素分画の定量的評価に使用される.

#6 TER(Thermal Enhancement Ratio, 熱増強比): 温熱療法なしの効果線量を温熱療法併用時の効果線量で割った値.1より大きいほど温熱療法の併用による増感効果が高い.

#7 TGF(Therapeutic Gain Factor, 治療効果比): 腫瘍のTERを正常組織のTERで割った値.1より大きい際には、腫瘍選択的な治療効果を示す.

#8再照射(Re-irradiation): 過去に放射線治療を受けた部位に対して再度行う放射線治療.正常組織の放射線記憶により耐容線量が低下するため,慎重な線量設定が必要.

#9 MDD50(Median Damaging Dose 50): 50%の動物に特定レベル以上の皮膚障害(本研究では≥2.5スコア)を引き起こす放射線量.正常組織の放射線耐容性の指標.

#10 TCD50(Tumor Control Dose 50): 50%の腫瘍で完全制御を達成するために必要な放射線量.腫瘍の放射線感受性を示す重要な指標.

利益相反に関する開示:
 著者に利益相反状態は認められなかった.

Mini-review:
Recent Preclinical Studies on the Combination of Radiation and Hyperthermia

MAKOTO ITO*

Department of Radiology, Aichi Medical University Hospital

*Corresponding author: itou.makoto.292(アットマーク)mail.aichi-med-u.ac.jp
Key Words: Hyperthermia, hypofractionated radiation, proton therapy, combination, preclinical study

Received: 6 October, 2025

Accepted: 8 October, 2025

Thermal Medicine2025.41(4)掲載予定