がんのハイパーサーミア治療における超音波とマイクロバブルの併用効果について
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がんのハイパーサーミア治療における超音波とマイクロバブルの併用効果について
鈴木 亮 (帝京大学)
がん治療におけるハイパーサーミア (HT) は,様々ながんで効果が認められている.また,HTが化学療法や放射線療法の感受性を高めることも,基礎や臨床研究で報告されている.そのため,HTによるがん治療効果を増強する併用療法についても研究が進んでいる.
近年,超音波とマイクロバブルの併用(USMB)を利用した細胞内への薬物・遺伝子デリバリー法や血管透過性亢進による能動的薬物デリバリー法が注目されている.この方法の原理は,マイクロバブルへの超音波照射により,マイクロバブルの振動や圧壊が誘導され,このとき生じる機械的作用が近隣の細胞膜に作用し,細胞膜に一過性の小孔が形成されることで細胞内に薬物や遺伝子を導入されることによる.また,このマイクロバブルの振動や圧壊が血流中で誘導されると血管内皮細胞に作用し,内皮細胞間の密着結合が一時的に弛緩することも報告されている.実際に,この方法を脳内の血管に適用すると,血液-脳関門(BBB)の透過性が増大する1-3).また,El Kaffasらは, USMBによる腫瘍内血管の傷害が放射線療法の効果を増強することを報告している4).しかし,これまでの検討では,HTとUSMBを組み合わせた研究は行われていない.今回紹介するSharmaらの報告は,ヒト前立腺がん移植マウスに対して,HTとUSMB併用によるがん治療効果を評価した内容である5).
ヒト前立腺がん細胞(PC3)をSCIDマウスの皮下に移植し,3-4週間後に腫瘍径が 8-10 mm 程度となったところで,Definity(マイクロバブル)を静脈内から投与し,各種強度 (0-740 kPa) の超音波 (500 kHz) をがん組織に照射した.その後,マウスを43℃の温浴にてHT (0-50 分間) を行った.治療24時間後にがん組織のTUNEL染色行ったところ,USMBのみやHT 40分間のみにおいてTUNEL染色陽性細胞の増加は認められなかった.一方,HT 50分間のみの治療において,TUNEL染色陽性細胞の増加が認められた.さらに,246 kPa や570 kPa の超音波強度におけるUSMBとHT (40または50分間)の組み合わせにより,顕著にTUNEL染色陽性細胞の増加が認められた.このように,USMBとHTの組み合わせにより,がん細胞のアポトーシス誘導効率を高められることが明らかとなった.なお,超音波強度を740 kPaまで高くしても570 kPa と同等の効果であった.そのため,以降の検討では,570 kPa の超音波照射強度での検討を行った.
USMBでは,マイクロバブルの振動や圧壊が血管内で誘導されるため,血管内皮細胞が最も影響を受けるものと考えられる.そこで次の検討では,USMB (0-570 kPa) とHT (0-40 分間) で処理したがん組織を24時間後に取り出し,がん組織の切片をCD31抗体で免疫染色し血管密度の観察を行った.その結果,USMB単独治療ではがん組織内の血管密度の低下は認められなかった.また,HT 単独治療では,50分間の治療で血管密度の低下が認められた.一方,USMBとHTの組み合わせでは,USMB(246 kPa)とHT 40分間の組み合わせで血管密度の低下が認められ,USMB(570 kPa)との組み合わせではHT 10分間においても血管密度の低下が観察された.このように,USMBとHTの組み合わせにより,効率よくがん組織内の血管密度の減少を誘導できることが示された.そこで,USMB単独,HT単独またはこれらの組み合わせで1回治療を行ったときの治療効果を検討した.その結果,USMBやHTの単独治療では,治療効果がほとんど認められなかった.一方,組み合わせでの治療において顕著な治療効果が認められた.
次に,週2回の治療を4週間繰り返して,治療効果を検討した.その結果,USMB単独では若干の腫瘍増殖抑制効果が認められた.一方,HT単独やUSMBとHTの組み合わせ治療では,2週目以降の腫瘍体積が増加しないことが明らかとなった.これらの群において,腫瘍体積の抑制効果は同程度であった.腫瘍内の状態を観察するため,Masson’s trichrome 染色(fibrosisの確認)およびKi-67の免疫染色(増殖細胞の確認)を行った.その結果,無処置コントロール群やUSMB単独治療群と比べて,HT単独とUSMBとHTの組み合わせ治療群では,fibrosisエリアの増大と増殖細胞の減少が認められた.この結果を詳細に検討したところ,USMBとHTの組み合わせ治療群ではHT単独治療群より,Ki-67陽性(増殖)細胞が顕著に少ないことが明らかとなった.
以上より,USMBとHTの併用治療は,HT単独治療より効果の高いがん治療法であると考えられる.このように,USMBとHTの組み合わせは,より効果的ながん治療法の開発における新たな治療戦略になるものと期待される.
参考文献
1) McDannold N., et al. Blood-brain barrier disruption induced by focused ultrasound and circulating preformed microbubbles appears to be characterized by the mechanical index. Ultrasound Med Biol, 34: 834-840, 2008.
2) Weber-Adrian D., et al. Strategy to enhance transgene expression in proximity of amyloid plaques in a mouse model of Alzheimer’s disease. Theranostics, 9: 8127-8137, 2019.
3) McMahon D., et al. Evaluating the safety profile of focused ultrasound and microbubble-mediated treatments to increase blood-brain barrier permeability. Expert Opin Drug Deliv, 16: 129-142, 2019.
4) El Kaffas A., et al. Tumour vascular shutdown and cell death following ultrasound-microbubble enhanced radiation therapy. Theranostics, 8: 314-327, 2018
5) Sharma D., et al. Ultrasound microbubble potentiated enhancement of hyperthermia-effect in tumors. PLOS ONE, 14(12): e0226475, 2019.