固形腫瘍に対する温熱療法に関するエビデンスの創出

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固形腫瘍に対する温熱療法に関するエビデンスの創出

~ハイリスク悪性軟部腫瘍に対するネオアジュバント

化学療法における温熱療法併用に関する無作為臨床試験~

 森田 勝 (九州がんセンター消化管外科) 

個々の癌患者に対し最良の治療を選択する際,evidence-based medicine(EBM)を考慮することは重要である.一般にエビデンスレベルの高い研究として,無作為比較試験(RCT: randomized controlled trial)やRCTのメタアナリシスがあげられ,一流の国際誌に取り上げられることも多い.

 温熱療法が抗癌剤・放射線療法の効果増強に寄与することは,基礎実験,臨床経験からも十分に認識されている.しかし,温熱療法の効果に関する前向き臨床試験の結果に関する発表は意外に少ない.本年,JAMA Oncology誌に,ESHO(欧州ハイパーサーミア学会)主導で行われた「ハイリスク悪性軟部腫瘍に対するネオアジュバント化学療法における温熱療法併用に関する無作為臨床試験(EORTC 62961-ESHO 95)」の長期成績が掲載され1),さらに,重要な結果として,Nature Reviews Clinical Oncology 誌にて紹介された2)

 ハイリスク悪性軟部腫瘍に対しては局所療法や全身化学療法が行われるが,治療後の再発率は高い.本試験は,遠隔転移陰性,筋膜まで達する5 cm以上,FNCLCCグレード2,3の悪性軟部腫瘍を対象とし,無作為にネオアジュバント化学療法(化療群)と化学温熱療法(温熱併用群)に1:1で割り付けた.局所療法(手術±照射)の前後に化療群では全身化学療法(doxorubicin, ifosfamide, etoposide),温熱併用群ではifosfamide投与に局所温熱療法(42℃,60分)を加えた.341例のうち329(化療:167,温熱併用:162)例が適格例であった.観察期間中央値が11.3年と長期にフォローされている.一次評価項目である局所無増悪生存期間は中央値で化療群29.2ヶ月に対し,温熱併用群では67.3ヶ月で,ハザード比(HR)でみると0.65と温熱併用群で有意に良好な成績であった.全生存率でみても化療,温熱併用群では各々5年生存51.3%, 62.7%,10年生存 42.7%, 52.6%と温熱併用群が有意に良好であった(HR:0.73).さらに,年齢,腫瘍占拠部位,腫瘍径,切除度,グレード,組織型など全てのサブクラス解析において,温熱併用群は化療群に対し予後良好であった.

 本試験は,厳密にコントロールされた前向き試験の結果として,温熱療法の化学療法への上乗せ効果を,長期生存で示した極めて重要な報告である.さらに,臨床試験で結果を出すことが困難な稀な腫瘍で,温熱療法の有効性を示している点でも意義深い.この結果は,悪性軟部腫瘍にとどまらず,他の固形腫瘍に対しても温熱療法の臨床効果を期待させる結果といえる.論文中では,欧州で行われている膵癌に対する第Ⅲ相無作為試験(NCT01077427)を紹介している.今後,温熱療法が各々の固形腫瘍で標準療法と認められ確立していくためには,様々な障壁はあるものの,本研究のように質の高い多施設共同の前向き試験を企画し,結果を得ることが望まれる.

参考文献

  1. Issels RD, et al. Effect of neoadjuvant chemotherapy plus regional hyperthermia on long-term outcomes among patients with localized high-risk soft tissue sarcoma: The EORTC 62961-ESHO 95 randomized clinical trial. JAMA Oncol 4:483-92, 2018.
  2. Killock D. Sarcoma: Local hyperthermia improves survival. Nat Rev Clin Oncol 15:266, 2018.