巨大な切除不能仙骨脊索腫におけるハイパーサーミア同時併用スポットスキャニング陽子線治療後の早期の臨床成績と腫瘍体積分析

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巨大な切除不能仙骨脊索腫におけるハイパーサーミア同時併用スポットスキャニング陽子線治療後の早期の臨床成績と腫瘍体積分析

近藤 隆, 水上達治, 齋藤淳一

(富山大学学術研究部医学系, 放射線診断・治療学講座, 放射線腫瘍学部門

ハイパーサミア(HT)が放射線治療効果を増強することはよく知られている.最近,線量分布に優れた陽子線治療にもHTとの併用が有効な可能性を示した臨床報告がある1).

切除不能仙骨脊索腫患者5(5772歳、男性)70 Gy(RBE)(12.5 Gy(RBE) x 28分割、週5回,5.5)Paul Scherrer Institute陽子線治療センターのペンシルビームスキャニング強度変調陽子線治療装置で陽子線を照射した.HT治療は毎週行われ,Sigma-HyperPlanによる治療計画に基づき,BSD 2000により,100 MHz RF波加温によるHT治療を実施した.加温時間は47~92分平均のHT治療および陽子線治療の間隔は123分(92~172)であった.腫瘍体積中央値735 cc(369~42), 追跡期間の中央値18か月(9~26)であった.MRI画像上明らかな腫瘍の縮小を認め縮小率の中央値46%(9~72)であった.RECIST guideline (version 1.1)による効果判定はPR3例、SDが2例であった.有害事象はCTCAE_v4で評価された.全例で急性のグレード2-3の局所疼痛を認めた.1例では晩期グレード3の腸骨骨折を認めた.受容可能な有害事象であり併用治療の可能性を示した1)

 同グループは最初の温熱陽子線治療を2例の切除不能な下肢軟部組織肉腫(グレード2粘液性繊維肉腫グレード3未分化多型肉腫)に実施した.12.0 Gy (RBE)7週間,計70-72 Gy(RBE)照射し,週1回陽子線治療後にHT治療を実施した明らかな早期,晩期の有害事象はなかったまた,MRI画像上の効果判定はCRであった.患者は追跡期間5および14か月の間屋内外の活動が可能であった2

 本邦でも筑波大学で悪性線維性組織球腫(MFH)に対して温熱陽子線治療が行われた.60歳男性左大腿部の6×4 cmのMFHに, 18分割, 計72 Gy (RBE)の陽子線と7回のHT治療がThermotron-RF8で行われた.HT治療は陽子線治療直後に実施されRF出力900 W,加温時間は60分であった.7年間の追跡期間中重篤な早期及び晩期有害事象はなく長期にわたる局所制御が可能であった3

これらを比較してみると,後半2論文の照射線量は2 Gy (RBE)/回であるのに対して,主論文は2.5 Gy (RBE)/回であり総線量70 Gy(RBE)は馬尾の耐容線量を超えるため,長期の安全性には注意が必要と思われる.通常の放射線治療に抵抗性である脊索腫に対し,治療強度を高めた陽子線治療とHTの併用は有望な可能性があるが,今後,晩期神経障害などの評価については留意する必要がある.

インビトロの実験系ではCHO (Chinese hamster ovary)細胞の野生株およびDNA修復欠損株を用いて, 陽子線照射後HT(42.5℃1時間)処理しコロニー形成法で生存率を調べたところ野生株およびNHEJ修復欠損株では明らかなHTによる放射線増感効果が認められたがHR修復欠損株では増感効果はないことが報告されている4)

以上難治癌の治療に際し,殺細胞効果はX線とほぼ同等とされる陽子線に対してもHT併用による治療効果の向上の可能性もあり課題解決を含め今後のさらなる進展が望まれる.

参考文献

1)  Tran S, et al. Early results and volumetric analysis after spot-scanning proton therapy with concomitant hyperthermia in large inoperable sacral chordomas. Brit J Radiol, 93:20180883, 2020.

2)  Datta NR, et al. Proton irradiation with hypertehrmia in unresectable soft tissue sarcoma. Int J Partcle Ther, 3: 327-36, 2016.

3)  Iizumi T, et al. Large malignant fibrous histiocytoma treated with hypofractionated proton beam therapy and local hyperthermia. Int J Partcle Ther, 6: 35-41, 2019.

4)  Maeda J, et al. Hypertehrmia-induced radiosensitization in CHO wild-type, NHEJ repair mutant and HR reair mutant following proton and carbon-ion exposure. Oncol Lett, 10: 2828-34, 2015.

用語解説

仙骨脊索腫 (sacral chordomas)

仙骨脊索腫とは仙骨に発生する悪性腫瘍である.ゆっくり増殖し,遠隔転移も早期には起こさない.切除が第一選択であるが,診断された時点で腫瘍が巨大化していることが多く治療が困難なことも多い.また,腫瘍切除により仙骨神経を切断するため,排尿排便機能や歩行に障害をきたすこともある.

悪性線維性組織球腫malignant fibrous histiocytoma; MFH

悪性線維性組織球腫は肉腫の一種であり,軟部組織と骨から発生する起源不明の悪性腫瘍である.MFHは4つの亜型(花筵状‐多形型, 粘液型, 巨細胞型 炎症型)に分類されるような幅広い組織像を呈する.未分化多形肉腫とも称される.

馬尾:

 馬尾(cauda equina)は、脊髄後位の脊髄神経と終糸がともに並ぶ部位である。脊髄後位の仙骨神経、尾骨神経は椎間孔を出るまで、ほとんど脊髄終糸に併行して走るようになり、その形が馬の尾に似た形態を示すため、馬尾(ばび)と呼ばれる。

DNA修復(DNA repair)

相同組換え(homologous recombination: HR)および非相同末端結合(non-homologous end joining:NHEJ)がある.HRでは切断部の修復の際に用いる鋳型として同一もしくはよく似た配列をもつゲノムを利用する.NHEJでは姉妹染色分体を必要とせず,すべての細胞周期内において機能し,相同性とは無関係に切断された末端同士を直接連結するため,DNA末端の接合部において変異が起こりやすい.ここで紹介した論文4)ではCHO (Chinese hamster ovary)-51D1, RAD51D欠損株やCHO-V3, DNA-PKcs欠損株を用いているが,前者がHR,後者がNHEJを欠く.

RECIST: Response Evaluation Criteria In Solid Tumours

CTCAE: Common Terminology Criteria for Adverse Events