日本ハイパーサーミア学会ニュースNo.173【学術紹介78】ハイパーサーミアに関する最近の話題78

頭頸部癌に対する光免疫療法

光藤健司
横浜市立大学大学院医学研究科 顎顔面口腔機能制御学

手術,放射線治療,化学療法が癌に対する3大治療と言われ,免疫チェックポイント阻害薬の導入により、免疫治療を含めたものが第4の治療といわれるようになった。夢の治療と言われるようになった免疫チェックポイント阻害薬も,奏功率は20-30%であり,免疫関連有害事象をはじめとする特異的な合併症も多く認められる.そこで,近年侵襲も少ない近赤外線光線免疫療法が脚光を浴びるようになった.本項では特に頭頸部癌光免疫療法についての最近の話題を報告する.
1.近赤外光線免疫療法
Near infrared photoimmunotherapy(NIR-PIT)(近赤外光線免疫療法)は、がん細胞の表面の抗原に特異的な抗体に近赤外線に反応するprobeをつけ,近赤外線を照射することで治療を行うがん光免疫療法である1, 2).NIR-PITは近赤外
の水溶性シリコンフタロシアニン誘導体であるIRdye700DX(IR700)とがん細胞の表面に発現した抗原を標的とするモノクローナル抗体(mAb)を投与するがんの分子標的光線療法である.その後の近赤外光線への局所曝露により,この光化学的「死」のスイッチが入り,その結果標的となるがん細胞の迅速かつ高度に選択的なimmuno-genic cell death(ICD: 免疫原性細胞死)☨1が発生す
る.本療法は米国国立衛生研究所の小林久隆氏により開発され,2020年9月に「切除不能な局所進行又は局所再発の頭頸部癌」を対象に,世界に先駆けて本邦で条件付き承認された.

2.頭頸部癌光免疫療法
次に頭頸部癌に対する光免疫療法の概要について述べる.本邦では切除不能な局所進行または局所再発の頭頸部癌に対して上皮成長因子受容体(EGFR)を標的とする抗EGFR抗体(セツキシマブ)とIR700を結合させたセツキシマブサロタロカンナトリウム(アキャルックスⓇ)が承認されている3).実際にはアキャルックスの点滴静注を行い、投与20~28時間後に医療機器である BioBladeⓇ レーザシステムを用
いた波長 690 nm のレーザ光を照射する.それによって本薬品に結合している IR700
が励起することにより光化学反応を起こす4).この結果,細胞外液が細胞内に流入することでがん細胞が膨張して物理的に破裂する.また,この抗体IR700は静脈注射によって腫瘍血管近傍の腫瘍細胞に最も高濃度で結合することができることから,近赤外線照射によってがん細胞が選択的に傷害される.
本治療の臨床研究は米国にて,切除不能な局所再発の外国人頭頸部扁平上皮癌患者を対象とした第Ⅰ/Ⅱa相試験が行われた.第Ⅱa相試験では30例がRM-1929を用いた光免疫療法を受け,全生存期間の中央値は9.30ヵ月(95%CI:5.16–16.92ヵ月), 4例(13.3%)が完
全奏効,9例(30.0%)が部分奏効であった.安全性については19例(63.3%)にグレード3以上の有害事象を認めた.その後切除不能な局所再発の日本人頭頸部扁平上皮癌患者を対象に国内第Ⅰ相試験が行われた.これら二つの試験により,切除不能な局所進行または局所再発の頭頸部癌患者に対する本治療の安全性プロファイルと有効性が示された.頭頸部癌光免疫療法は日本国内の62施設(2022年4月15日時点)で治療が可能となり,頭頸部癌以外でも食道癌などで臨床試験が実施、あるいは予定されている.このように光免疫療法はさまざまながん種や治療セッティングへの応用が可能となり,臨床試験を含めた今後の開発が期待される.

参考文献
1)    Kobayashi H, Choyke P.L.: Near infrared photoimmunotherapy of cancer.
Acc Chem Res, 52: 2332-2339, 2019.
2)    Cognetti DM, Johnson JM, Curry JM, et al.: Phase 1/2a, open- label,
multicenter study of RM-1929 photoimmunotherapy in patients with
locoregional, recurrent head and neck squamous cell carcinoma. Head & Neck,
43: 3875-3887, 2021.
3)    佐藤 和秀: 近赤外光線免疫療法のメカニズムの解明. 日レ医誌 (JJSLSM),
41: 104-109, 2020.
4)    榎田 智弘, 田原 信:光免疫療法.がん分子標的治療, 19: 196-200, 2022.
5)    花井 信広:頭頸部がんの新たな治療戦略 がん光免疫療法.日耳鼻, 125:
492-493, 2022.

用語解説
☨1 immuno-genic cell death(ICD: 免疫原性細胞死):ある種の抗がん薬は,通常のネクローシスやアポトーシスに比べ免疫応答を惹起しやすい形で,がん細胞を殺傷する.この細胞死を免疫原性細胞死とよぶ.
利益相反に関する開示
著者に利益相反状態は認められなかった

Mini-review:
Photoimmunotherapy for Head and Neck Cancer
KENJI MITSUDO*
Department of Oral and Maxillofacial Surgery, Yokohama City University
Graduate School of Medicine, 3-9 Fukuura, Kanazawa-ku, Yokohama, Kanagawa
236-0004, Japan
*Corresponding author: mitsudo@yokohama-cu.ac.jp
Key Words: photoimmunotherapy, head and neck cancer, RM-1926/ASP1929
Received: 16 August, 2022
Accepted: 31 October, 2022
Thermal Medicine  Vol.38(4)掲載予定