最近報告されたがんの統計と疫学的解析結果報告について

ハイパーサーミアに関する最近の話題21

最近報告されたがんの統計と疫学的解析結果報告について

増永 慎一郎(京都大学複合原子力科学研究所)

悪性疾患を含む各疾患に対する標準治療が,科学的根拠に基づいた臨床試験の成果に従い,整備されつつある.この標準治療を有効に適応するためには実臨床における診療の傾向や患者さんの動向に関して正確に把握する必要がある.同様に,標準治療と承認されたハイパーサーミアを実施する際にも必要となる.今回は,がん治療に関わる者として了解しておくべき最近報告された「がんの統計と疫学的解析」の中から主な知見を報告する. 

世界3,700万症例に基づくがん5年生存率の調査報告1)

2015年には,CONCORDプログラムの第2サイクルが,保健システムの有効性の指標としてのがん生存の世界的な監視を確立し,がん制御に関する世界的な方針を知らせるようになった.2000〜2014年の15年間に癌と診断された3,750万人の患者の個人記録が含まれ,71の国と地域で322の集団ベースのがん登録によりデータが提供され,そのうち47件が100%の人口をカバーしている.成人の皮膚,食道,胃,結腸,直腸,肝臓,膵臓,肺,乳房(女性),子宮頸部,卵巣,前立腺および黒色腫,および脳腫瘍,白血病および成人と子供のリンパ腫が解析された.

ほとんどのがんの5年生存率は,依然として米国/カナダ,オーストラリア/ニュージーランド,フィンランド,アイスランド,ノルウェー,スウェーデンで最も高かった.また,デンマークは,多くのがんに関して,他の北欧諸国との差が縮まりつつあった.生存率は,比較的致死性の高いがんの一部を含め,全般に上昇傾向にあり,肝,膵,肺のがんの生存率が最大5%上昇した国もあった.2010~2014年に診断を受けた結果によると,乳がん女性の5年生存率は,オーストラリアが89.5%,米国は90.2%と高い値を示したが,インドでは66.1%と低い値を示し,依然として国によって大きな差が認められた.消化器がんの年齢調整5年生存率は,東アジア諸国が最も優れていた.胃がんは韓国が68.9%(日本は60.3%),結腸がんも韓国が71.8%(日本は67.8%),直腸がんも韓国が71.1%(日本は64.8%)で最も高く,食道がんは日本が36.0%(韓国は31.3%),肝がんは台湾が27.9%(日本は30.1%だがデータの信頼性が低かった)であり,最も良好な結果であった.これに対し,東アジアの国は皮膚悪性黒色腫(韓国:59.9%,台湾:52.1%,中国:49.6%),リンパ性悪性腫瘍(52.5%,50.5%,38.3%),骨髄性悪性腫瘍(45.9%,33.4%,24.8%)の5年生存率が,他の地域に比べて低かった.小児では,急性リンパ芽球性白血病の5年生存率が,エクアドルの49.8%からフィンランドの95.2%まで大きな差があった.また,小児の脳腫瘍の5年生存率は,成人よりも高かったが,ブラジルの28.9%からスウェーデン/デンマークのほぼ80%まで,国によって大きな差がみられた.

肺,上部消化管および膀胱癌患者における禁煙と生存率との関連2):

がん患者が禁煙することで死亡率が低下するか否かはわかっていない.今回,1999~2013年の後ろ向きコホート研究で,肺がん2,882例,上部気道消化管がん757例,膀胱がん1,733例について,がん診断後1年間の禁煙と全死亡率およびがん特異的死亡率との関連を評価した結果,肺がんと上部気道消化管がんでは禁煙した患者は喫煙し続けた患者より死亡リスクが低いことが示されたが,膀胱がんでは禁煙と死亡の関連はみられなかった.

がん生存者の食事の質と全死因死亡および癌特異的死亡との関連3)

がんサバイバー(経験者)は,野菜や果物,全粒粉や玄米など精製されていない全粒穀物,たんぱく質,低脂肪の乳製品が多く,栄養バランスに富む食事を取ると死亡リスクが低下する可能性のあることが,新たな研究で示された.1988~1994年の米国民健康栄養調査(NHANES)IIIに参加した約3万4,000人のうち,がんと診断されていた1,191人を対象に食事の質と死亡リスクとの関係を調べた結果,食事の質が高い人では低い人と比べて,がんによる死亡リスクが65%低減することが分かった.

ただし,この研究は因果関係を証明したものではなく,食事の質を高めると延命効果がどの程度得られるのかは明らかではない上に,運動などの健康に良い他の習慣が影響した可能性も考慮されていない.さらに,喫煙の影響が調整されておらず,改定前の食生活指針が用いられているなど,この研究にはいくつかの限界点があるものの,「最近集積されつつある,がんサバイバーに健康的な食事を推奨すべきとするエビデンスと概ね一致する」と考えられる.ただし,がんの治療中や回復期には必要とされる栄養素が変わることがあるため,がんサバイバーは自分に必要な栄養素や運動について,医療従事者に事前に相談する必要もある.

前立腺癌と診断された男性の身体活動と生存率との関連4)

前立腺がん診断後の身体活動と死亡率との関連を調べた研究はほとんどない.前立腺がん診断後の身体活動が全死亡率および前立腺がん特異的死亡率に影響を与えるかどうかを,大規模コホートで検討し,身体活動性の高さが全死亡率および特異的死亡率の低下と関連することが示された.

1997~2002年に限局性前立腺がんと診断され,2012年まで追跡調査された男性4,623例のデータを分析した.追跡期間中,561例が死亡し,そのうち194例が前立腺がんにより死亡した.全死亡率は,レクリエーションを5METs・時/日以上,歩行もしくは自転車走行を20分/日以上,家事を1時間/日以上,運動を1時間/週以上行った男性が,それぞれの活動でより活動性が低い男性と比較して有意に低かった.前立腺がん特異的死亡率は,歩行または自転車走行20分/日以上,運動1時間/週以上の男性が有意に低かった.よって,より高いレベルの身体活動は,全死因および前立腺癌特異的死亡率の低下と関連していたと思える.

低脂肪食と乳がん女性の生存との関連5)

女性健康イニシアチブ(Women’s Health Initiative;WHI)研究では既に,低脂肪食を取っている女性は侵襲性の高いタイプの乳がんを発症する確率が低いことが明らかにされている.今回,乳がん診断後の生存率に対する低脂肪食の効果を明らかにするため,1993~1998年に米国40カ所の施設で行われたWHI研究のデータが事後解析された.同研究の参加者は,研究参加時に乳がんと診断されておらず,食事の総摂取カロリー量に占める脂肪の比率が20%未満になることを目指した低脂肪食群(40%,1万9,541人)と一般的な食事(総摂取カロリー量の3分の1以上が脂肪)を継続する群(60%,2万9,294人)にランダムに割り付けられた.8.5年(中央値)追跡し,参加者のうち1,764人が乳がんと診断され,診断時の年齢は平均67.6歳で,総死亡数は516人だった.乳がんの診断から11.5年後(中央値)の全生存率を比較した結果,低脂肪食群では,一般食群に比べて10年生存率が22%高かった.死亡した女性516人のうち,乳がんで死亡した女性は低脂肪食群で68人であったのに対し,一般食群では120人であった.食事による脂肪摂取量が少ない女性は,心血管疾患をはじめとする他の原因による死亡率も低く,期間中に心血管疾患で死亡したのは通常食群で64人であったのに対し,低脂肪食群では27人であった.

よって,生涯のどの時点においても,低脂肪食は健康に極めて大きな利益をもたらすと言える.

乳がん無発症生存に対するアルコール消費量とアジュバントホルモン療法の効果解析6)

飲酒は乳がんリスクを増加させるが,乳がん診断後の生存との関連におけるこれまでの知見は一貫していない.2007~2012年に原発性乳がんと診断された女性1,399例に,診断される前の年の飲酒量が調査され,アジュバントホルモン療法の有無に関係なく,飲酒者で無発症生存率が高いことが報告された.観察された逆相関の根底にあるメカニズムを解明するために今後の解析が必要とされる.

参考文献

1)  Allemani C., et al. Global surveillance of trends in cancer survival 2000-14 (CONCORD-3): analysis of individual records for 37,513,025 patients diagnosed with one of 18 cancers from 322 population-based registries in 71 countries. Lancet, 391: 1023-1075, 2018.

2)  Koshiaris C., et al. Smoking cessation and survival in lung, upper aero-digestive tract and bladder cancer: cohort study. Br J Cancer, 117: 1224-1232, 2017.

3)  Deshmukh A.A., et al. The association between dietary quality and overall and cancer-specific mortality among cancer survivors, NHANES III. JNCI Cancer Spectrum, 2; pky022, 2018.

4)  Bonn S.E., et al. Physical activity and survival among men diagnosed with prostate cancer. Cancer Epidemiol Biomarkers Prev, 24: 57-64, 2015.

5)  Chlebowski RT, et al. Association of low-fat dietary pattern with breast cancer overall survival: a secondary analysis of the women’s health initiative randomized clinical trial. JAMA Oncol, 24: e181212, 2018.

6)  Kowalski A, et al. Interactions between alcohol consumption and adjuvant hormone therapy in relation to breast cancer-free survival. J Breast Cancer, 21: 158-164, 2018.