気管支サーモプラスティは上皮細胞由来HSP60の分泌と線維芽細胞のタンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼを阻害することにより気道リモデリングを改善する

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気管支サーモプラスティは上皮細胞由来HSP60の分泌と線維芽細胞のタンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼを阻害することにより気道リモデリングを改善する

岡澤成祐, 近藤 隆*

富山大学・学術研究部・医学系・第一内科学, *放射線腫瘍学

難治性気管支喘息では各種抗体製剤の開発がめざましいが,抗体製剤が無効なほどの難治性喘息の治療法として気管支サーモプラスティ*1(気管支熱形成術)(Bronchial thermoplasty,以下BT)が,気道リモデリング*2を改善する新しい物理的治療として注目されている. しかし,その分子機序は十分に解明されていない.気道リモデリングとは気管支喘息の難治化の過程で気管支壁が線維化を伴った厚い層になることである.これまでの研究で気管支喘息患者の気管支平滑筋では、PRMT1(タンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ1)*3が高発現しており,このPRMT1は肺線維症や気管支喘息の病理過程に寄与することが知られている.

ここで紹介するSunらの研究では,気管支喘息治療でのBTにおいて,リモデリング制御に関わるPRMT1に関連したシグナル経路の変化とその特徴を検討した1)

重篤な喘息症状を有する患者8名からBT前後で気管支肺胞洗浄液(Bronchoalveolar lavage fluid: BALF)を得た.また, 51名のBT前患者と23名のBT後患者からそれぞれ生検を採取し,そこから気管支上皮細胞と線維芽細胞を単離した.その上皮細胞を培養しその培養上清(Epi.S)も得た.このBALFとEpi.Sを線維芽細胞に添加してPRTM1に関連するシグナル因子の発現を検討した.まず,気管支線維芽細胞ではBT前のBALFまたはEpi.S処理によりC/EBPb(CCAAT enhancer-binding protein-b)*4の発現が増加し,そのことによってmiRNA-19a*5発現が低下した.このmiRNA-19aの発現低下がERK1/2(extracellular signal-regulated kinase-1/2 )*6のリン酸化とPRMT1を高発現させた.しかしBT後のBALFおよびEpi.S処理ではこれらの促進効果は見られなかった.また,BT前のEpi.Sで線維芽細胞を処理するとERK1/2のリン酸化とPRMI1の発現上昇に加えてPGC1α(peroxisome proliferator-activated receptor-γ coactivator-1α)*7の発現が増加するとともに,ミトコンドリア質量も増加した.さらにBT前のEpi.Sは線維芽細胞の細胞増殖を促進した.これらの変化が気道リモデリングの実態ではないかと推察される.しかし,BT後のEpi.Sではこれらの促進効果は見られなかった.つまりBT後には気道リモデリングが抑制されることが示唆される.  なお,気管支線維芽細胞のミトコンドリア活性経路のC/EBPβ発現をsiRNAで阻害すると,BT前のEpi.Sによる線維芽細胞の増殖が抑制された.またsiRNAでPRMT1を阻害するとC/EBPβが抑制され,PRMT1をPRMT阻害薬(AMI-1)で阻害すると同様に線維芽細胞の増殖が抑制された.気管支線維芽細胞にBT前のEpi.Sで処理すると認められるHSP60*8,cytochrome c,α-SMAの髙発現もAMI-1で抑制された.

このように気管支上皮細胞から分泌される液性因子が,線維芽細胞を刺激すると考えられたので,BT前とBT後のBALF中に含まれるタンパク質を比較したところ,主要な49種類のタンパク質発現の変化がBT前後で認められた.特にHSP60の発現低下がBT後のBALFで認められたことが興味深い.気管支上皮細胞のトランスクリプトーム解析の結果ではHSP60が調整されるようなmRNAが発現していた.そこで健常人から採取した気管支線維芽細胞をリコンビナントヒトHSP60で処理するとC/EBPβ,PRMT1,PGC1αの発現が認められたことから,HSP60は気道リモデリングを促進することが示唆される.

以上より, 著者らは「BTは気道線維芽細胞におけるPRMT1および気道上皮細胞由来のHSP60分泌を阻害して気道リモデリングを改善する」という仮説を提案している.

最近BTとインターロイキン-5(IL-5)に対するヒト化モノクローナル抗体であるメポリズマブ(Mepolizumab)の難治性喘息患者における臨床効果および安全性に関する比較研究がされ,BTはメポリズマブと同等の治療効果を示すことが報告された2) .本邦の喘息予防・管理ガイドライン2018ではBTが有効なバイオマーカーが明らかではないことから,生物学的製剤やマクロライド系抗菌薬が優先されており,BTと抗体製剤の比較は非常に重要な知見である.メポリズマブ群は有意にベースの末梢血好酸球数が多かったにもかかわらず,喘息質問票のAsthma Control Questionnaire(ACQ)の改善,喘息増悪率の低下,1秒量(肺機能の指標である最初の1秒間で吐き出した)の改善は両群で有意差が認められなかった.著者らはサブセット解析の中で特に抗体製剤選択肢が制限される末梢血好酸球が300 /μL未満の患者にもBTの効果が同等に得られたことに注目している.BT群では全体を通して18.2%に再入院や入院延長が認められたが,メポリズマブ群では1年後に25.5%のメポリズマブ中断例が副作用やACQの改善ないことなどを理由に認められた.これは現在の課題を反映していると思われる.すなわち抗体製剤は有効な治療法ではあるが,長期に渡る治療継続が必要で高額の医療費がかかるとともに,長期投与に伴い有害事象の発生も懸念される.現在,本邦ではBTは一生に一度の適応であり,数10年後の長期的な効果や安全性などは未知数なところは課題ではある.しかしながら,BTは本邦では2015年より保険収載となった重症喘息に対する新規非薬物療法で,高額ではあるが治療期間は約2か月である等の利点を有し,有力な難治性喘息治療の一つになる.

参考文献

  1. Sun Q, et al. Bronchial thermoplasty decreases airway remodelling by blocking epithelium-derived heat shock protein-60 secretion and protein arginine methyltransferase-1 in fibroblasts. Eur Respir J. 54(6):1900300, 2019.
  2. Langton D, et al. Bronchial thermoplasty versus mepolizumab: Comparison of outcomes in a severe asthma clinic. Respirology. 2020 May 4. doi: 10.1111/resp.13830. Online ahead of print.

用語解説

*1. 気管支サーモプラスティ(Bronchial thermoplasty, BT):気管支熱形成術という. 2015年7月に日本でも保険適応となった気管支喘息に対する新しい治療法である. 難治性喘息で肥厚した気道平滑筋に対して局所加熱処理で気道壁平滑筋を減少させる. 内径3~10 mmの気管支を対象に, 気管支鏡下に専用のカテーテルを挿入し, 目的とする気管支でバスケットを開き, 高周波電流により65℃で10秒間通電する. 治療装置としてAlair™気管支サーモプラスティ(BT)システムがある. 詳細については国立国際医療研究センター病院のウェブサイト(http://www.hosp.ncgm.go.jp/s003/010/110/index.html)を参照されたい.

*2. 気道(気管支)リモデリング:傷害を受けた気道組織に種々の修復機転が働いた結果,正常から逸脱した病的な構造変化を生じ,機能低下をもたらすこと.特に非可逆的なリモデリングは,気管支喘息の難治化の重要な要因と考えられる. これは単純に訳すと『気管支の再構築』である. 近年, 重症化した難治性喘息のメカニズムの一つとして, 病理学的な理解が深まり, 気管支壁が線維化を伴った厚い層になることを意味し, 慢性的な気道狭窄をもたらす. この狭窄は, 単純な気道の収縮(気管支を取り巻く筋肉の収縮)や浮腫と違って, 十分に回復しない. 気管支喘息は,気道の慢性炎症性疾患であり, その慢性炎症によって気道過敏性が上昇し, 気道の筋肉収縮・浮腫・粘液過分泌とリモデリングによって気道狭窄(気流閉塞)をもたらし, 息切れ・喘鳴・咳などの発作症状を起こすとされる.

*3. タンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ(Protein Arginine Methyltransferase:PRMT):PRMT1は主要なタンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼの一つである.1996年にGary らにより同定された. in vitroin vivoで, ヒストンH4の3番目のアルギニン(Arg3)を特異的にメチル化する. これにより, 核内ホルモン受容体による転写が活性化される. 相同組換え修復と非相同末端結合修復反応の両方に関与するDNA 修復酵素であるMRE11がPRMT1によりメチル化される等, DNA修復活性においても重要な役割を果たす.喘息患者の気道平滑筋細胞では高発現していることが報告されている.

*4. CCAAT/エンハンサー結合タンパク質(以下C/EBP):CCAAT/エンハンサー結合タンパク質(以下C/EBP)ファミリーは, C末端に塩基性ロイシンジッパーを持ち, ヘテロダイマーあるいはホモダイマーを形成してDNAに結合し, 様々な細胞において炎症・増殖・代謝・分化・細胞増殖などに協調的に関与する重要な転写因子群である. C/EBPファミリーにはC/EBPα, β, γ, δ, ε, ζの6種類のアイソフォームがあり, その内C/EBPα, β, δ, εの4種類が転写活性化ドメインを有する.

*5. miR-19a:miR-17-92クラスター(miR-17,miR-18a,miR-20a,miR-19b-1,miR-92a-1)の一つ.6つのmiRNAは,約1kbのゲノム領域に近接して連続する形で配置されており,これらのmiRNAの前駆体を含む一つのホストRNA(miRNA一次転写産物)から産生される.このように近接して存在し,一つのホストRNAから産生されるmiRNA群はmiRNAクラスターと呼称する.

*6. ERK1/2(extracellular signal-regulated kinase-1/2)

ERKは細胞外からの刺激を核に伝達するMAPキナーゼ・サブファミリーの一つであり,ERK1とERK2という高い相同配列を持つアイソフォームが存在する.ERK2は細胞質,核において様々なタンパク質を基質としてリン酸化する事で,細胞周期制御から脳の高次機能まで様々な細胞機能に広範に関与している.

*7. PGC1α (peroxisome proliferator-activated receptor-γ coactivator-1α): Peroxisome proliferator-activated receptor-γ(PPAR-γ)コアクチベータ-1α(PGC-1α)は,特にNRF-1とTFAMなど転写制御因子として機能するタンパク質である.PGC-1αはエネルギー代謝の強力な調節装置であり,適応性熱産生,ミトコンドリアバイオジェネシス,ブドウ糖と脂肪酸代謝を含む多種多様な生体応答に関与している.通常は,ミトコンドリアの豊富な活動性酸化代謝組織(例えば心臓と骨格筋など)で高度に発現する.

*8. 熱ショック蛋白質60(HSP60):別名はHSPD1で, シャペロニンファミリーのメンバーであり,生理的ストレス下で細胞生存を促進するシャペロンとして作用する. HSP60は, ミトコンドリアにおけるタンパク質折りたたみやポリペプチド鎖の組み立て等, 多くの細胞機能との関連が示されている. 近年,HSP60は, アポトーシスや癌細胞増殖阻害と関連することも報告されている. 分子シャペロンの中でも, 特にタンパク質の折りたたみに重要である分子がシャペロニンである. シャペロニンはそのアミノ酸配列や構造的特性を基に大きく二つのグループⅠおよびグループⅡに分けられる. グループⅠシャペロニンには原核生物のGroEL や真核生物のミトコンドリアHSP60, グループⅡシャペロニンには真核生物の細胞質シャペロニンCCT や古細菌グループⅡシャペロニンなどが存在する.