温熱治療は腫瘍をHot tumor化することで免疫チェックポイント阻害剤の効果を増強する

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温熱治療は腫瘍をHot tumor化することで免疫チェックポイント阻害剤の効果を増強する

横堀武彦(群馬大学未来先端研究機構 統合腫瘍学研究部門)

浅尾高行(群馬大学未来先端研究機構 ビッグデータ統合解析センター)

近年,免疫チェックポイント阻害剤が手術,抗がん剤,放射線と並ぶ第4の治療ツールとして注目されている.特にT細胞上で発現するPD-1や腫瘍細胞に発現するPD-1リガンド (PD-L1:別名CD274, B7-H1)を標的とした免疫チェックポイント阻害剤が悪性黒色腫,肺がんなどで著効することが報告されている.しかし,免疫チェックポイント阻害剤が効果を示す症例は10〜20%前後であり過半数の症例には薬効を示さず,その耐性メカニズムの解明と増感剤の開発が実臨床において切望されている.現在のところ,免疫チェックポイント阻害剤に抵抗性を示す症例の特徴として,腫瘍への免疫細胞浸潤に乏しく免疫チェックポイントタンパク質を発現しない腫瘍,いわゆる炎症反応に乏しいCold tumorと呼ばれる病態が挙げられる.このCold tumorの免疫細胞浸潤や免疫チェックポイントタンパク質発現を増進させる治療ツールはCold tumorをHot tumorに転換することで免疫チェックポイント阻害剤の増感剤になり得ると考えられており,実際にOncolytic virusなどはその候補として有望視されている1, 2)

温熱治療はがん細胞に直接的に作用し,抗腫瘍効果を誘導するだけでなく,腫瘍免疫を活性化 (血流増加による免疫細胞浸潤↑,がん特異的抗原提示↑など)することも知られている.今回紹介するLiuらの研究では,FVIO-mediated mild hyperthermiaがマウスの乳がんモデルにおいてPD-L1を標的とした免疫チェックポイント阻害剤の感受性を有意に亢進させると報告している3).特に,温熱とPD-L1阻害療法の併用により腫瘍増殖がほぼ完全に制御でき,さらに,肺転移も有意に抑制される点は非常に興味深い.また,そのメカニズム解明のために温熱介入後の腫瘍局所の免疫細胞浸潤を評価した結果,温熱により有意に腫瘍内にCD8陽性T細胞が浸潤し,腫瘍免疫を抑制する骨髄由来免疫抑制細胞(myeloid-derived suppressor cell: MDSC)の浸潤は有意に低下していた.さらに,温熱とPD-L1阻害療法を併用することでより有意なT細胞浸潤亢進とMDSC浸潤低下が観察された.

これらの知見から,温熱治療は局所の腫瘍免疫反応を亢進させ (Cold tumor→Hot tumor),さらには免疫チェックポイント阻害剤の増感治療ツールとなり得ることが示唆された.今後,温熱治療により治療標的腫瘍を文字通りHot tumorに転換する治療戦略と免疫チェックポイント阻害剤併用の意義をさらに検討していく必要があるだろう.

参考文献

  • Ribas A, et al. Oncolytic virotherapy promotes intratumoral T cell infiltration and improves anti-PD-1 immunotherapy. Cell 170: 1109-1119, 2017. 2017.
  • Haanen JBAG. Converting cold into hot tumors by combining immunotherapies.

      Cell 170: 1055-1056, 2017.

  • Liu X, et al. Ferrimagnetic vortex nanoring-mediated mild magnetic hyperthermia imparts potent immunological effect for treating cancer metastasis. ACS Nano. 13: 8811-8825, 2019.

用語解説:

免疫チェックポイント阻害剤:免疫チェックポイントタンパク質は免疫細胞により自己の組織が攻撃されないように,バランスを維持するため機能しているが,がん細胞はこの機能を利用して生体内で生存,増殖している.この免疫チェックポイントタンパク質を標的とする治療薬は免疫チェックポイント阻害剤と呼ばれ,さまざまな癌腫で顕著な治療効果が報告されている.この「免疫抑制の阻害によるがん治療法の発見」により京都大学の本庶佑教授はノーベル医学生理学賞を受賞している.

Cold tumor/Hot tumor:PD-L1などの免疫チェックポイントタンパク質の発現に乏しく,T細胞などの免疫細胞浸潤の少ない腫瘍は免疫チェックポイント阻害剤の感受性に乏しくCold tumor,逆に免疫チェックポイントタンパク質が発現し細胞障害性T細胞の高度な浸潤を認める腫瘍は免疫チェックポイント阻害剤の効果が高くHot tumorと呼ばれている.

Oncolytic virus:腫瘍溶解性ウイルスはがん細胞に感染して細胞死を誘導するウイルスの総称でありアデノウイルス,レオウイルス,ヘルペスウイルスなどが知られており,現在はより腫瘍選択性を高めるための改良が進められている.参考文献1)でRibasらが用いたTalimogene laherparepvec(T-VEC,商品名Imlygic)は遺伝子組換え腫瘍溶解性ヘルペスウイルスでありメラノーマに対する治療薬として,すでにFDAに承認されている.

FVIO: ferrimagnetic vortex-domain iron oxide nanoring (FVIO)は磁気ナノパーティクルを利用し,温熱を誘導する手法の一種.