進行性・高リスク軟部肉腫患者に対する領域加温併用サルベージ療法について

一社)日本ハイパーサーミア学会ニュースNo.110【学術報告45】
ハイパーサーミアに関する最近の話題45

進行性・高リスク軟部肉腫患者に対する領域加温併用サルベージ療法について

金森昌彦、*近藤 隆
富山大学学術研究部医学系,人間科学,*放射線診断・治療学

アントラサイクリン系抗癌剤治療後に増悪あるいは再発した軟部肉腫(soft tissue
sarcoma,以下STS)の患者は予後不良と考えられる.そのため手術可能な状態への縮小を図るか,腫瘍の増殖制御を目的として,サルベージ療法が実施される.ここでは領域加温(regional hyperthermia,以下RHT)を併用した
ICE 療法(イフォスファミド 6 g/m2,カルボプラチン 400 mg/m2,およびエトポシド
600 mg/m2)を術前後の化学療法として実施した最新の報告1) を紹介する. RHTにはBSD-2000
hyperthermia system (Pyrexar Medical Co., 周波数75~140 MHz,8アンテナを搭載,最大出力1,300 W)を使用し,腫瘍温度,40-43°Cで60分間とした.この治療法について,後
ろ向き研究として有効性と安全性を評価した.対象は18歳以上の局所進行性高リスクSTS患者で,ファーストラインのアントラサイクリン系抗癌剤治療無効例に対して,RHT併用ICE療法を受けた患者を転移の有無により比較した.画像評価,有害事象,無増悪生存期間(progression free survival,以下PFS),全生存期間(overall survival,以下OS)を
評価した. ルートヴィヒ・マクシミリアン大学ミュンヘン(通称ミュンヘン大学)附属病院で1996~2018年に213 名のSTS患者がICE治療を受けたが,このうち選択基準に合致する110名が分
析対象となった. 54名が転移なしの局所進行例(LA-STS),56名が転移例(M-STS)であった.疾患コントロールができたのはLA-STSで59%,M-STSで47%であった.LA-STSでは21%で画像上の縮小を認め,7%(4名)が手術に移行できた.またM-STSでは11%が画像上縮小を示し,9%(5名)が手術可能となった.PFSはLA-STSで10か月と明らかにM-STSの4か月より長く(p<0.0001),LA-STSのOSの中央値は26か月,M-STSでは12か月であった.多変量解析の結果,OSの改善において,疾患コントロールをできたことが唯一の独立予後改善因子であった.有害事象として好中球減少(症)性発熱が多く(25%),治療関連死は3例であった.すなわちICE併用RHT療法は進行性・高リスクSTSに対して,アントラサイクリン系抗癌剤治療無効群でも,患者によっては効果があり,手術への移行が可能であった.一方,有害事象例を考慮すると用量は75%への減量が推奨されるものとしている.
また,同じく高リスクSTSに対するRHT併用術前化学療法の効果がEORTC 62961-ESHO
95ランダム化臨床試験成績として報告されている2).ここでは,単独化学療法群(イフォスファミド 6 g/m2,ドキソルビシン50 mg/m2,およびエトポシド 600 mg/m2)とRHT併
用群との間でPFSおよびOSが評価された.対象は329例(年齢の中央値51歳,女性147名,男性182 名)であり,220 例(67%)に再発を認め,188例(57%)が死亡した(追跡期間の中
央値は11.3年).RHT併用によるPFSの改善効果に関するハザード比は0.65,同様にOSに関するハザード比は0.73であった.5年生存率は単独化学療法群が51.3%であるのに対して,RHT併用群で62.7%,10年生存率は単独化学療法群で42.7%,RHT併用群で52.6%であった.このように高リスクSTS患者において化学療法にRHTを併用することで,予後の改善が認められた.
両者に共通して用いられている薬剤はイフォスファミドとエトポシドであるが,アントラサイクリン系抗癌剤に効果を示さなかった場合でもカルボプラチンの使用が有効であったことには意味があるかもしれない.しかしながら,以上の2つの論文は進行性・高リスクSTS患者において,薬剤選択だけを考えるのではなく,RHTの併用が予後改善に向けて推奨されることを示しており,治療に難渋するSTS患者に恩恵をもたらすものといえる.
参考文献
1)  Bücklein V, et al. Ifosfamide, carboplatin, and etoposide (ICE) in
combination with regional hyperthermia as salvage therapy in patients with
locally advanced nonmetastatic and metastatic soft-tissue sarcoma. Sarcoma
27: 6901678, 2020.

2)  Issels RD, et al. Effect of neoadjuvant chemotherapy plus regional
hyperthermia on long-term outcomes among patients with localized high-risk
soft tissue sarcoma: The EORTC 62961-ESHO 95 randomized clinical trial. JAMA
Oncol 4: 483-492, 2018.
用語解説
軟部肉腫:皮下組織や筋肉などの軟部組織から発生する悪性腫瘍.全身のあらゆる部位に発生し,約60%は四肢(2/3が大腿部などの下肢)に発生する.軟部肉腫患者の発生率は人口10万人あたり約3人である.頻度として脂肪肉腫が最多で,粘液線維肉腫,未分化/分類不能肉腫,平滑筋肉腫などが多い.治療としてアントラサイクリンン系薬剤(ドキソルビシン[アドリアシン]等)による術前化学療法後に手術を行うが,再発例では予後不良である.二次治療としてゲムシタビンおよびドセタキセル併用療法が報告されているが奏効割合は16%と高くない.最近ではバゾパニブ(ヴォトリエント,マルチチロシンキナーゼ阻害剤であり,血管新生阻害剤に分類される分子標的薬治療薬),トラベクテジン(ヨンデリス,ヒト粘液型脂肪肉腫およびヒトEwing肉腫において染色体転座により発現するそれぞれFUS-CHOP及びEWS-FLI1の転写因子の機能を阻害し,がん関連遺伝子の発現を制御),エリブリン(ハラヴェン,微小管の動態を阻害する)等の新薬もある.
サルベージ療法:標準的治療法(Standard therapy)には手術,放射線療法,化学療法などがあるが,これらが有用でなかった場合に用いられる治療手段のこと.また化学療法にはファーストライン,セカンドライン,サードラインなどがあるが,ファーストラインで効果が出なかった場合にセカンドラインに移る場合に,この言葉が用いられることもある.さらに,十分な証拠はないが,救済のためには挑戦する価値があると思われる治療法という意味を持つこともある.
EORTC:European Organization for Research and Treatment of Cancer,欧州癌研究機関の略
ESHO:European Society for Hyperthermic Oncology,欧州癌温熱療法学会の略