がんの免疫チェックポイント阻害効果を改善するための光温熱療法
一社)日本ハイパーサーミア学会ニュースNo.146【学術報告66】
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がんの免疫チェックポイント阻害効果を改善するための光温熱療法
増永 慎一郎 (阪和第二泉北病院,大阪府立大学 )
CTLA-4やPD1/PDL1などの免疫「チェックポイント」に対するモノクローナル抗体を含む免疫チェックポイント阻害(Immune checkpoint blockade, ICB)は,がん患者の臨床転帰を劇的に改善したが,再発率の高い広範囲に渡る固形腫瘍に対しては必ずしも良好な奏効率を示すことができるとは言えず,この点がICB治療の問題点とされている1,2).他方,光温熱療法(Photothermal therapy, PTT)は,波長が一致するレーザによって活性化された光応答性ナノ粒子を利用する局所的な熱焼灼治療であり,多くのin vitro研究および前臨床in vivo研究で示されているように,腫瘍細胞の種類に応じてさまざまな熱量領域において,PTTによって発生した熱が腫瘍全体の破壊を引き起こすとされている.しかしながら,PTTのみによる単独治療は,不均一な熱分布と最適ではない免疫応答のために,腫瘍を完全には排除し得ず,局所再発や転移を引き起こす場合もよくある3).すなわち,ICB治療はがんの免疫原性を改善するが,強力な抗腫瘍細胞毒性を引き起こせない.ナノ粒子ベースのPTTは,標的化および制御された細胞毒性を誘発し得るが,長期的な免疫原性記憶に関しては最適ではない.したがって,この二つの治療法を組み合わせる事によって,補完的で相乗的な抗腫瘍効果を提供し得える治療法が期待できる4).
今回紹介する論文では,PTTで使用される三つのクラスのナノ粒子(金属無機ナノ粒子,炭素ベースのナノ粒子,有機染料)の有用性を示し,前臨床モデルとして,ICBの効果を強化するナノ粒子ベースのPTT治療併用の可能性を示している4,5).なお,ICBと組み合わせるナノ粒子ベースのPTT治療を最適化する際の重要な因子は,適切な熱量(サーマルウィンドウ)であると考えられている.免疫原性細胞死は,腫瘍細胞の種類に応じて,特定のサーマルウィンドウにおいて最も効率よく引き起こされる6).
PTT治療によって損傷を受け死にかけている細胞から生成された抗原はワクチンとしても機能し,ICBと組み合わせることによって,免疫応答をさらに活性化させることができる.ICBと組み合わせたPTTは,長期に渡る免疫記憶を誘導しつつ,原発性および転移性腫瘍を効率的に根絶し得るという強力な抗腫瘍細胞効果を惹起できる.ナノ粒子ベースのPTTとICB免疫療法を組み合わせる手法は,がん治療法として互いの限界を相乗的に補完しあうことによって,腫瘍の縮小と長期の無病生存を目指す有力ながん治療法の一つとなる可能性を秘めている4).
参考文献
1) Haslam A, et al. Estimation of the percentage of US patients with cancer who are eligible for and respond to checkpoint inhibitor immunotherapy drugs. JAMA Netw Open, 2: e192535, 2019.
2) Hamid O, et al. Five-year survival outcomes for patients with advanced melanoma treated with pembrolizumab in KEYNOTE-001. Ann Oncol, 30: 582-8, 2019.
3) Nam J, et al. Chemo-photothermal therapy combination elicits anti-tumor immunity against advanced metastatic cancer. Nat Commun, 9: 1074, 2018.
4) Balakrishnan PB, et al. Photothermal therapies to improve immune checkpoint blockade for cancer. Int J Hyperthermia, 37: 24-49, 2020.
5) Ledezma DK, et al. Indocyanine green-nexturastat A-PLGA nanoparticles combine photothermal and epigenetic therapy for melanoma. Nanomaterials, 10: 161, 2020.
6) Sweeney EE, et al. Photothermal therapy generates a thermal window of immunogenic cell death in neuroblastoma. Small, 14: 1800678, 2018.