ハイパーサーミアがHPVによるp53の分解を防ぐ

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ハイパーサーミアがHPVによるp53の分解を防ぐ 
(群馬大学:高橋昭久)

今回、Amsterdam大学Academic Medical CenterのOei AL氏の業績について紹介させていただきます。これまでに、「DNA修復経路に対するハイパーサーミアの効果」についての総説[1]を、我々の業績も含めて世界の動向を的確および公平にRadiat Oncolにまとめられており、筆頭著者のOei氏がどのような方なのか関心を抱いておりました。ICHO2016にてPresident’s Symposia Lectureの演者にOei氏が選ばれ、簡単な履歴が大会HP[2]に掲載され、博士課程の若い学生さんであることを知り、驚きを隠せませんでした。さらに、ICHO2016で講演を拝聴し、その研究内容にも感心させられました。

ここで紹介するのはその講演のもとになった「ハイパーサーミアはp53依存的アポトーシスを介して子宮頸がんのヒトパピローマウイルス(HPV)を選択的に標的とする」というCancer Resに報告された論文です[3]。HPVは、子宮頸がんに関与しています。リスクの高いHPVタイプ16と18が子宮頸がんの70%以上で見つかっており、腫瘍性E6タンパク質の産生に関与しています。そして、E6はがん抑制遺伝子産物p53タンパク質と結合して、ユビキチンの結合を介してp53の分解に関わっていることが知られています。このことから、E6を標的とすることが、HPV陽性の腫瘍細胞を除去する有望な治療の選択肢であることが考えられます。さらに、放射線とハイパーサーミアの併用は、子宮頸がんに対する非常に効果的な治療戦略であることが知られています。そこで、Oei氏らは、子宮頸がん細胞SiHa (HPV16感染型)およびHeLa (HPV18感染型)、それぞれの移植腫瘍、患者の生検サンプルを用い、ハイパーサーミアの影響を調べました。その結果、臨床で用いられるような42℃の1時間処理によって、E6によるp53の分解を防ぐことを明らかにしました。さらに、温熱処理は、E6–p53複合体の形成を妨げて、p53依存的なアポトーシスとG2-アレストを引き起こすことを見い出しました。以上の結果から、HPV陽性の子宮頸がんに対して、ハイパーサーミアが治療効果向上に適していることを示唆しました。

残念ながらOei氏らの論文には引用されていませんでしたが、2000年に播磨先生(関西医大)らが、子宮頸がんで放射線単独に比べて、放射線と温熱の併用でp53の下流遺伝子産物でアポトーシス誘導に関与しているBaxタンパク質の発現頻度が高いことを報告されており[4]、その結果を支持するものでした。なぜ、ハイパーサーミアによってE6とp53の結合が妨げられるのか、HSPなど分子シャペロンとの関係はどうかなど、興味は尽きません。幸いにも、次回のICHO2020はAmsterdamでの開催予定です。新進気鋭のOei氏に再会できることを楽しみにしています。

  1. Oei AL, et al. Effects of hyperthermia on DNA repair pathways: one treatment to inhibit them all. Radiat Oncol. 10:165, 2015.
  2. http://www.thermaltherapy.org/ebusSFTM/InvitedLecturers.aspx
  3. Oei AL, et al. Hyperthermia selectively targets human papillomavirus in cervical tumors via p53-dependent apoptosis. Cancer Res. 75:5120-9, 2015.
  4. Harima Y, et al. Bax and Bcl-2 protein expression following radiation therapy versus radiation plus thermoradiotherapy in stage IIIB cervical carcinoma. Cancer. 88:132-8, 2000.