新しい誘電加温装置について

ハイパーサーミアに関する最近の話題2

新しい誘電加温装置について
(千葉大学フロンティア医工学センター:齊藤一幸,伊藤公一)

筆者らの専門領域は“工学分野”であるので,本来であれば様々な加温機器の紹介を行うことができれば,読者にとって有用であろう.しかしながら現時点において,我が国では,誘電加温方式を採用した一機種のみが,ハイパーサーミア用として認可された加温装置であることは読者各位が知るところである.この状況には,若干,寂しい気もしている(もちろん,海外から個人輸入した装置や,研究段階の装置は各種存在する).

しかしながら,近年,海外で開発された誘電加温装置が,我が国を除く各国で使用されており臨床上の成果を挙げているということである1).そして,我が国でも未承認機器として一部のクリニックで使用され,また,本学医学部附属病院では臨床試験が行われている.そこで筆者らは,装置の工学的な側面から当該機器の特徴を理解するために,この装置(装置1)について計算機シミュレーションを用いて,その加温特性を明らかにすることにした.なおその際には,現在国内で広く用いられている機種(装置2)についても計算を行い,両者の特徴を比較した.まず,双方とも誘電加温装置であるので,一対(二つ)の電極で患者の体をはさむという点は共通である.しかしながら装置1では,1つの“円板電極”と,患者が横たわる“ベッド全体がもう一方の電極”として対を構成している点が装置2と大きく異なる(今回の計算では,患者がベッド上に仰臥位としたので,装置1のベッド側電極が患者の背中側である).また,装置1の動作周波数および出力が,それぞれ13.56 MHz,150 Wであるのに対し,装置2は8 MHz,1.5 kWである.

ハイパーサーミア用加温機器の性能評価指標として重要なSAR (specific absorption rate [W/kg])分布の算出結果は,当然のことながら患者の背中側(装置1ではベッド側電極,装置2では円板電極)で大きく異なるものの,腹側の円板電極付近では大きな差異は認められなかった2).しかしながら,両者の最大出力は10倍の違いがあるので,SARの絶対値も10倍の差異がある.ところで装置2では,体内の腫瘍部分を治療温度の42oC程度まで上昇させるために,強力な発振装置や体表冷却システムを備えている.それでも十分な温度上昇を得るには,種々の工夫が必要である.一方,装置1は,最大出力が装置2の1/10であり,治療中の患者が感じる熱感もあまりない(何となく温かい程度).したがって装置1では,患部がハイパーサーミアの治療温度に達しているとは考えにくい.それでも治療効果があったということであるので,たとえば熱的作用ではない効果(非熱効果)等についても検討する必要があると思われる.

装置1では,出力に特殊な変調を施しているため,低い出力でも腫瘍部分に効率よくエネルギーが注入されると謳っている.しかしながら,この変調の効果についても,工学的には今のところはっきりしていない.現在,当学会でもさかんに研究されているマイルドハイパーサーミアのような現象が起こっているのであろうか.今後は,特に,生物分野の研究者により現象の解明がされることを期待したい.

参考文献

1) Szasz A.: Challenges and solutions in oncological hyperthermia. Thermal Medicine, 29: 1-23, 2013.

2) 熊谷, 遠藤, 齊藤, 伊藤: 数値解析によるHF帯高周波電流を用いた誘電加熱装置の特性評価. 2015年電子情報通信学会総合大会講演論文集, 115, 2015.