ハイリスク膀胱がん(Ta, Tis, T1, T2)における臓器温存に関する深部領域加温と併用した化学放射線療法の長期成績

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ハイリスク膀胱がん(Ta, Tis, T1, T2)における臓器温存に関する深部領域加温と併用した化学放射線療法の長期成績

河合 憲康(名古屋市立大学大学院医学研究科 腎・泌尿器科学分野

本邦で膀胱がんの治療に放射線化学療法や温熱療法が施行される例は多くはないが,ここで紹介する最近の論文はドイツでの長期にわたる臨床成績の結果である1).本研究の目的は,経尿道的膀胱腫瘍切除術(TURBT)後の領域深部加温(RHT)を併用した化学放射線療法(RCT)の臨床成績と安全性を評価することである.1982年から2016年にわたり,ハイリスク369名の膀胱がん患者(深達度評価で,pTa, pTis, pT1, およびpT2 cN0-1, cMO(所属リンパ節転移,遠隔転移無))に対してTUR-BT後,集学的治療が行われた.全ての患者に対して膀胱と所属リンパ節に放射線治療(RT)が行われた.このうちRCTが行われたのは215名,RCT+ RHTは79名に実施され,RTのみは75名であった.治療応答については,4-6週後に評価された.

RT,RCT,RCT+RHT後の評価のための2回目のTURBTの結果は,ハイリスク表在癌(Ta,Tis,T1)の完全治癒(comlete remission:CR)は,RT,RCT,RCT+RHTの順で146/166(88%),19/22(86%),87/99(88%)であった.筋層浸潤癌T2のそれは,26/44(59%),91/109(84%),27/32(84%)であった.多変量解析ではRCTはRTよりCR率を向上させるが,RCT+RHTはさらにCR率を向上させるという結果ではなかった.

5年および10年全生存率はそれぞれRCTで64%(95%CI,58%-71%),39%(95%CI,33%-47%),RTで45%(95%CI:35%-58%), 19%(95%CI:12%-13%),RCT+RHTで87%(95%CI:79%-95%,60%(95%CI:47%-77%)であった.多変量解析でRCTはRTより全生存率の向上に寄与しており,さらにRHTの追加は,さらにそれの向上に寄与していることが示された.

5年および10年全無病生存率に関しても,多変量解析でRCTはRTより無病生存率の向上に寄与しており,さらにRHTの追加は,さらにそれの向上に寄与していることが示された.

観察期間中に55例は膀胱全摘除術となった.5年及び10年後の膀胱温存率はRCT+RHT,RCTの順で96% vs 82% ,96% vs 78%であり膀胱摘除術になるまでの期間をRCT+RHTとRCTで比較すると,RCT+RHTのほうが長かった.

治療毒性については,膀胱刺激症状,胃腸症状,嘔吐症状のほか,検査所見で白血球減少,血小板減少などGrade3-4の出現率を比較すると,RT,RCT,RCT+RHTで差はなかった.

TUR-BT後にプラチナを基本とした同時RCTをRHTと併用して行う集学的治療は悪性度の高い膀胱がん患者に関して,局所制御,膀胱の温存率,および全生存率において改善効果が認められた.本法は膀胱全摘出術に代わる治療法として有用と思われる.但し,本論文では患者背景で年齢,悪性度や初回TUR-BTの成績によって治療バイアスがかかっている可能性もあり,内容評価には注意が必要である.また,今後は患者の利益を考慮した集学的治療を行う際にはさらなる泌尿器科医と放射線治療医の緊密な連携が必要となろう.

参考文献

1)  Merten R et al. Long-Term Experience of Chemoradiotherapy Combined with Deep Regional Hyperthermia for Organ Preservation in High-Risk Bladder Cancer (Ta, Tis, T1, T2).

     Oncologist, 24: e1341-e1350, 2019.

用語解説

TUR-BT:Transurethral resection of bladder tumor, 経尿道的膀胱腫瘍切除術,

RHT: Regional Deep Hyperthermia; ここでは BSD-2000 3D/PC-Hyperthermia System (BSD Medical Corporation, Salt Lake City, UT)を使用.Sigma Eye あるいは Sigma-60 applicator を使用.周波数,90–100 MHz.

原発腫瘍の壁内深達度

TX原発腫瘍の評価が不可能
T0原発腫瘍なし
Ta乳頭状非浸潤がん
Tis上皮内がん(CIS)
T1上皮下結合組織に浸潤する腫瘍
T2a筋層の半ばまでの浸潤
T2b浸潤が筋層の半ばを越えるもの
T3a膀胱周囲脂肪組織への顕微鏡的浸潤が想定される
T3b膀胱周囲脂肪組織への肉眼的にはっきりとした壁外浸潤が想定される
T4a前立腺※,精嚢,子宮あるいは腟への浸潤
T4b骨盤壁あるいは腹壁への浸潤

※前立腺にある尿道に上皮内がんが進展した場合や表在性がんが発生している場合,浸潤ではなく,多発している病態であり,T4aには分類されません.