温熱光線力学治療は皮膚と粘膜の扁平上皮がんのアポトーシスと活性酸素種生成を増やす
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温熱光線力学治療は皮膚と粘膜の扁平上皮がんのアポトーシスと活性酸素種生成を増やす
近藤 隆(富山大学学術研究部医学系,放射線診断・治療学),清水忠道(同,皮膚科学)
光線力学治療(Photodynamic Therapy:PDT)は,光増感剤と光照射を併用して選択性を高めたがん治療法で,多くの表在性のがん治療に利用されている.その治療メカニズムは,光増感剤が生成するO2.-,・OH等の酸素ラジカルが関与するType Iと,一重項酸素が関与するType IIの活性酸素種が患部を構成する細胞の細胞死をもたらすことによる.5-アミノレブリン酸(5-ALA)で外用治療中の組織,皮膚,粘膜を正常皮膚温度以上に加温した後,青色光を照射し,アポトーシスや細胞内活性酸素生成を促進させ,治療効果の向上を図る方法に温熱光線力学治療(Thermal PDT)がある.近年,AustinらはThermal PDTの日光角化症の新規治療法としての効果をインビトロ実験系で調べた1).2種類の扁平上皮がん(SCC)細胞株(Mucosal A431, Cutaneous SCC-13)を21~42℃で5-ALA存在下で培養し,1,000秒間青色光(波長420 nm)をBlu-UR PDT用光照射装置(DUSA Pharmaceuticals)を用いて照射後,細胞死(アポトーシス,ネクローシス)と活性酸素種(スーパーオキシド)生成を測定した.細胞死の検出にはAnnexin-V/7-AAD蛍光試薬を利用し,フローサイトメトリーで測定した.36℃では5-ALA用量依存性のアポトーシスおよびスーパーオキシド生成の増加を認めた.また,5-ALA濃度を0.5 mMとした場合,39℃および42℃で培養後の青色光照射で有意にアポトーシスとスーパーオキシド産生が増えた.以上の結果から,この著者らはThermal PDTを皮膚や粘膜SCCに対する新治療法として提案している1).
さらに,最近では実臨床においても顔面に生じた日光角化症に対するThermal PDTの治療成績が報告された.10例において5-ALAの20分間塗布処理中に加温して,10 J/cm2の青色光を照射した.ポルフィリン画像を取得して,蛍光強度を測定した.ポルフィリン蛍光強度は加温処理後有意に上昇した.加温マスクの平均温度は38~42℃であった.363部位の治療を完遂し,平均消失率は91.5%,5例では完全消失したことから,臨床的にも本治療法が遂行可能且つ有用であることが示された2).
尚,対照となるヒト皮膚線維芽細胞を用いた研究では,33~42℃で5-ALA(濃度0.5 mM)と培養すると,有意なアポトーシスとスーパーオキシド産生の増強を認め3),15および20分間の温熱処理では有意差があることが報告されている4).以上,皮膚科学用外用薬においてもハイパーサーミア領域の加温を利用することで,治療効果の改善が期待できる.
参考文献
1) Austin E, et al. Thermal photodynamic therapy increases apoptosis and reactive oxygen species generation in cutaneous and mucosal squamous cell carcinoma cells. Sci Rep, 8:12599, 2018.
2) Willey A. Thermal photodynamic therapy for actinic keratoses on facial skin: A proof-of-concept study. Dermatol Surg, 45: 404-10, 2019.
3) Mamalis A, et al. Temperature-dependent impact of thermal aminolaevulinic acid photodynamic therapy on apoptosis and reactive oxygen species generation in human dermal fibroblasts. Br J Dermatol, 175: 512-9. 2016.
4) Koo E, et al. Thermal ultra short photodynamic therapy: Heating fibroblasts during sub-30-minute incubation of 5-aminolevulinic acid increases photodynamic therapy-induced cell death. Dermatol Surg, 44: 528-33, 2018.
用語解説:
5-アミノレブリン酸 (5-amino levulinic acid: 5-ALA):
5-アミノレブリン酸(5-ALA)は,天然アミノ酸である.この5-ALAは細胞内に取込まれ,ミトコンドリア内でプロトポルフィリンⅨ(PpⅨ)に生合成される.PpⅨは光化学活性を有するため,青色可視光(375-445nm)で励起すると,赤色蛍光(600-740nm)を発光する.このように5-ALAを用いてがん細胞を赤色に蛍光発光させるがん診断が可能であり,悪性神経膠腫や筋層非浸潤性膀胱がんの術中診断薬として用いられている.また,同様に,がん細胞に集積したPpⅨに,特定波長の光を照射し,がん細胞に傷害を与える治療法を光線力学治療(PDT)(ALA-PDT)という.
光線力学的治療法(photodynamic therapy:PDT):
本治療法は,がんに集積性を示す光感受性物質(レザフィリン[Talaporfin Sodium])と半導体レーザー(664 nm)光照射による光化学反応を利用した局所的治療法である.低いエネルギーで選択的にがん病巣を治療可能であり,正常組織への障害が非常に少ない低侵襲性の治療法である.早期肺がん,表在性食道がん,表在性早期胃がん,子宮頚部初期がんおよび異形成,加齢黄斑症, 原発性悪性脳腫瘍,化学放射線療法又は放射線療法後の局所遺残再発食道がんは保険適応となっている(日本光線力学学会から引用, 改編).
日光角化症(actinic keratosis):
本疾患は,紫外線でできる代表的皮膚がんである.日光角化症は,皮膚の表皮にとどまっている初期の皮膚がんを指し,その状態では転移の心配はない.放置すると次第に隆起して,浸潤性の有棘細胞がんとなる.論文によれば,米国では2004年の統計で3,960万人が罹患,医療費の総額は10億ドルに達する4).本邦では治療法として外科的切除,炭酸ガスレーザ照射の他に細胞性免疫を不活化するイミキモド(Imiquimod)外用治療がある.