温熱負荷腫瘍細胞由来のエクソソームはIL-6を介して制御性T細胞からTh17細胞への変換により腫瘍増殖を阻害する
ハイパーサーミアに関する最近の話題32
温熱負荷腫瘍細胞由来のエクソソームはIL-6を介して制御性T細胞からTh17細胞への変換により腫瘍増殖を阻害する
近藤 隆(富山大学大学院医学薬学研究部)
近年,細胞外小胞(Extracellular vesicle)の一つであるエクソソームは細胞から分泌され,体内を循環し,細胞間情報伝達を担い,そして,多くの疾患との関連が報告され,今非常に注目されている.癌治療との関連で,腫瘍細胞由来のエクソソーム(TEXs: Exosomes derived from tumor cells)に関する報告は多いが,温熱負荷による腫瘍細胞由来エクソソーム(HS-TEXs: Exosomes derived from Heat-Stressed tumor cells)の分泌やその働きについての報告は, 必ずしも多くない.
HS-TEXsは多くのHSP70を含み,免疫原性が高く,効率よく腫瘍特異的傷害性T細胞応答を担うこと1),ヘルパーT細胞の一種であるTh1細胞を誘導し,抗腫瘍効果を示すこと2)等が報告されている.
HS-TEXsの強力な抗腫瘍免疫応答はこれに含まれる多量のHSP70によるものであり,HSP70によって誘導されるIL-6はIL-17発現を促進し,抗腫瘍効果を発揮することが知られているが,HS-TEXsが制御性T細胞(Tregs)からTh17細胞への変換により抗腫瘍効果を発揮するか否かは不明であり,今回紹介する研究はこのことを検証するために行なわれた3).In vitro実験では,マウス結腸癌MC38を使用した.TEXsとHS-TEXs(加温条件は42℃,1 h)を比較したところ,後者の方がHSP70およびHSC70の量は多く,Alix (apoptosis-linked gene 2-interacting protein X)は少なかった.HS-TEXsは骨髄の樹状細胞からのIL-6分泌をより強く刺激した.また,樹状細胞から分泌されたIL-6は腫瘍細胞由来のTGF-β1の誘導によるTregs (Foxp3+細胞を指標に)の分化を阻害し,Th17細胞(IL-17+細胞を指標に)の分化を促進した.しかし,IL-6-/-マウスから得られた樹状細胞を用いた場合は,HS-TEXs によるTh17細胞の分化促進は見られなかった.In vivo実験では,TEXs と比較してHS-TEXsはMC38担癌マウスモデルで強力な腫瘍増殖遅延効果と,効果的なTregsからTh17細胞への変換効果を示した.しかしIL-6-/-マウスにおける担癌モデルでは、やはり上記の効果は消失した.したがって,HS-TEXs による抗腫瘍効果はIL-6依存的であることが示された.またIL-17中和抗体で処理するとTEXsの抗腫瘍効果は消失したが,HS-TEXsの抗腫瘍効果の消失は部分的であった.
さらに,ハイパーサーミア治療(装置はNRL-002型で,30.32および40.68 MHz の波長を利用するRF加温装置,Jilin Maida Co., Jilin, Chinaを使用,直腸温度で39oC,60分加温)を受けた結直腸癌患者12例(40-60歳)では血清中のIL-6 およびIL-17のレベルが上昇し,また,治療後の単離された末梢血単核細胞分画のCD4+T細胞あたりのTh17細胞の増加とTregsの減少が判明した.
以上より,本研究成果はHS-TEXsは免疫抑制性TregsからIL-6を介してTh17細胞に変換する高い能力を有しており,臨床的にも抗腫瘍効果に貢献する可能性を示した.臨床例でHS-TEXsが直接関係するか否かは今後の検討に委ねられるが,今後とも温熱刺激に特異的なTEXs研究がさらに進むことが期待される.
参考文献
1) Dai S et al. More efficient induction of HLA-A*0201-restricted and carcinoembryonic antigen (CEA)-specific CTL response by immunization with exosomes prepared from heat-stressed CEA-positive tumor cells. Clin Cancer Res, 11:7554-7563, 2005.(熱負荷は43oC, 1時間).
2) Cho JA et al. MHC independent anti-tumor immune responses induced by Hsp70-enriched exosomes generate tumor regression in murine models. Cancer Lett, 275:256-265, 2009.
3) Guo D et al. Exosomes from heat-stressed tumour cells inhibit tumour growth by converting regulatory T cells to Th17 cells via IL-6. Immunology, 154: 132-143, 2018.
用語解説
エクソソーム(Exosome):細胞から分泌される直径50~150 nmの顆粒状の小胞.表面は細胞膜由来の脂質や膜タンパク質で構成され,内部は核酸(mRNA, microRNA, DNA)の他,多胞体形成関連タンパク質(Alixなど)や熱ショックタンパク質(HSP70, HSP90)などを含む.エクソソームは血液中を循環しており細胞間情報伝達を担っている.がんや神経変性疾患をはじめとする多くの疾患との関連の報告もある.また,エクソソームを病気の診断や治療に利用する検討も多く,PubMedでExosomeを検索するとヒット数は1万件以上である.
制御性T細胞:Tregと称する.今年度の文化勲章の受章者である坂口志文大阪大学特任教授が発見した免疫応答の抑制的制御(免疫寛容)を司るT細胞の一種. 免疫応答機構の過剰な免疫応答を抑制するためのブレーキ(負の制御機構)や,免疫の恒常性維持で重要な役割を果たしている.がん細胞はこの制御性T細胞を利用して,免疫系からの攻撃を回避している.
Th17細胞:ヘルパーT細胞(Th細胞)のサブセットの一つであり,近年新たに発見されたものである. サイトカインであるインターロイキン(IL)-17を産生する能力を有することからこの名がある.
IL-6:T細胞やマクロファージ等の細胞により産生されるレクチンであり,液性免疫を制御するサイトカインの一つである.IL-6受容体は分子量130 kDaの糖タンパク質であるgp130(CD130)と会合して細胞内に情報を伝える.IL-6は1986年に相補的DNA(cDNA)が大阪大学の平野 (現、量子科学技術研究開発機構(QST)理事長) らによりクローニングされ,以降IL-6は非常多くの生理現象や炎症・免疫疾患の発症メカニズムに関与していることが明らかになった.
NRL-002型加温装置他の情報は以下のHPを参照:
http://www.jlmaida.com/index.php?c=Product&a=product_list&pro_cat_id=2