Hsp70のコシャペロンBAG3とがん温熱療法
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Hsp70のコシャペロンBAG3とがん温熱療法
田渕 圭章,柚木 達也 (富山大学)
BAG (BCL-2-associated athanogene) タンパク質ファミリーメンバーのBAG3は,酵母ツーハイブリッドスクリーニング法によりHsc/Hsp70 ATPaseドメインと相互作用するタンパク質として同定された1).予想通り,本タンパク質は熱ショックタンパク質 (HSPs) の主要なタンパク質Hsp70のコシャペロンとして機能することが示された.BAG3は,ヒトの組織全般に普遍的に分布するが,特に心臓,筋組織やがん組織で高発現であることが知られている.また,BAG3は,酸化ストレス,温熱,重金属,ウイルス感染やプロテアソーム阻害等,種々のストレスにより誘導される.Bag3遺伝子のプロモーター領域には,2か所のヒートショックエレメント (HSE) が存在し,そこに結合する熱ショック転写因子HSF1がBag3の主要な転写因子である.BAG3は,アポトーシス,細胞分化,細胞骨格の構築やマクロオートファジー等の様々な細胞機能の制御に関与することが数多くの研究から明らかとなった.さらに,がん,ミオパチー,加齢に伴う神経変性疾患等,多様な疾患に関連する近年注目されているタンパク質である2,3).
がんにおけるBAG3の役割を研究した例を紹介する.ヒト膵管腺がんの細胞質のBAG3の高発現と死亡率が正の相関を示すことが報告された.また,同がんからBAG3が遊離されインターフェロンで誘導される膜タンパク質IFITM2 (Interferon-induced transmembrane protein 2) 受容体を介してマクロファージと結合する.興味深いことに,抗BAG3モノクローナル抗体は,マウスの移植がんの成長を抑制した4).膠芽腫においてBAG3が高発現し,これが化学療法剤に抵抗性を示すがん幹細胞の維持に重要であることが示された5).これまでに,様々ながんでBAG3の高発現とその細胞増殖促進や細胞保護作用が明らかとなっている2).
上記の様に細胞保護作用を有するBAG3はHSF1により転写が活性化され,温熱により発現が誘導されることから,その機能阻害は温熱の効果を増感すると推察できる.実際,ヒト口腔扁平上皮や網膜芽細胞腫のがん細胞株において,温熱によるアポトーシス誘導時にBAG3に対するsiRNA (siBAG3) を用いてその発現誘導をノックダウンすると,予想通り,温熱の効果が増強された6,7).近年,がん細胞近傍で近赤外線とナノ粒子による光発熱効果を利用する光熱 (温熱) 療法が注目されている.金ナノロッドにsiBAG3を結合させ,これを用いた光熱療法により,ヒト口腔扁平上皮がん細胞の殺細胞効果の増強が示された.さらに,マウスの移植がんモデルに対してもこの療法は顕著な腫瘍抑制作用を示した8).がん温熱療法において,BAG3は有用な標的遺伝子となる可能性がある.今後のこの動向に注目したい.
参考文献
- Takayama S., et al. An evolutionarily conserved family of Hsp70/Hsc70 molecular chaperone regulators. J Biol Chem, 274: 781-6, 1999.
- De Marco M., et al. Role of BAG3 in cancer progression: A therapeutic opportunity. Semin Cell Dev Biol, in press.
- Stürner E., et al. The role of the multifunctional BAG3 protein in cellular protein quality control and in disease. Front Mol Neurosci, 10: 177, 2017.
- Rosati A., et al. BAG3 promotes pancreatic ductal adenocarcinoma growth by activating stromal macrophages. Nature Commun, 6: 8695, 2015.
- Im C.N., et al. BIS-mediated STAT3 stabilization regulates glioblastoma stem cell-like phenotypes. Oncotarget, 7: 35056-70, 2016.
- Yunoki T., et al. The combination of silencing BAG3 and inhibition of the JNK pathway enhances hyperthermia sensitivity in human oral squamous cell carcinoma cells. Cancer Lett, 335: 52-7, 2013.
- Yunoki T., et al. BAG3 protects against hyperthermic stress by modulating NF-κB and ERK activities in human retinoblastoma cells. Graefes Arch Clin Exp Ophthalmol, 253: 399-407, 2015.
- Wang B.K., et al. Gold-nanorods-siRNA nanoplex for improved photothermal therapy by gene silencing. Biomaterials, 78: 27-39, 2016.