HSP47はがん細胞の増殖や浸潤転移を促進する

一社)日本ハイパーサーミア学会ニュースNo.126【学術報告54】

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HSP47はがん細胞の増殖や浸潤転移を促進する

大塚健三(中部大学)

分子シャペロン機能を持つHSPs(heat shock proteins,熱ショックタンパク質)やその転写因子であるHSF1(heat shock transcription factor 1,熱ショック転写因子1)が,がん細胞の増殖や浸潤転移を促進することは,一般的にも受け入れられてきている.HSPsのうちHSP70やHSP90のがん細胞の増殖促進効果などについてはよく研究されており,それらを標的とした阻害剤によるがん治療の研究も進んでいる1).HSP47は小胞体に局在するコラーゲン特異的シャペロンとして知られている2).最近,そのHSP47ががん細胞の増殖や転移に対して促進効果があることがいくつかの論文で報告されているので以下に紹介する3〜6).これまでHSP47の発現がグリオーマの悪性度や乳がんの予後不良とよく相関することなどが知られていたが,その分子メカニズムは不明であった.

 まず,北海道大学の田村らのグループの研究である3).彼らは最初にいくつかの乳がん細胞株についてHSP47発現を調べたところ,高転移性の細胞ではHSP47発現細胞の割合は数%であった.ところが,その高転移性乳がん細胞をマウスに移植して形成された腫瘍組織ではHSP47発現細胞が20%近くにまで増加した.また,同じ細胞を尾静脈に注入してできた肺転移巣を調べたところ,HSP47発現細胞が約90%にまで増加した.そこで,移植腫瘍から単離したHSP47高発現細胞について,HSP47をノックアウトすると遊走能や浸潤能が低下し,尾静脈に注入したところ肺での転移巣も減少した.これらのことから腫瘍の微小環境が,乳がん細胞にHSP47を誘導し,その結果,がん細胞の増殖や転移を促進することが示唆される.そこで,HSP47と結合するタンパク質を調べたところ,小胞体内のHSP47は小胞体膜に局在するIRE1a(unfolded protein response [UPR]に関与する因子の一つ)*を介して細胞質のNMIIA(非筋肉ミオシンIIA)と結合していることが判明した.HSP47高発現細胞では確かにアクチンストレスファイバーが観察され,細胞周辺部に葉状仮足(lamellipodia)が多く形成されていた.これらの結果はミオシンとアクチンフィラメントの結合による収縮力の増強を意味し,これにより細胞の遊走能が向上することを示唆している.遊走能の向上はがん細胞の転移につながる.以上の成績は,これまで知られていなかったHSP47の新たな機能を明らかにし,HSP47が乳がん細胞の転移の促進因子として働くことを示した.

 同じ田村らの研究グループは,HSP47がIRE1aの活性化を阻害することでROS(活性酸素種)の発生を抑制し,その結果がん細胞の増殖を維持していることも報告している4)

 また,XiongらはHSP47が別のメカニズムでがん細胞の転移を促進することを示した5).それによると,血液中を循環しているがん細胞はHSP47を高発現することでコラーゲンtype Iの細胞外への分泌が亢進しており,そのことによりがん細胞と血小板の結合が増加してがん細胞同士が集合してクラスターを形成し,その結果がん細胞の血管外への溢出(extravasation)が促進されるという.これもがん細胞の転移を促すことになる.

 さらに,Chernらは結腸直腸がんにおいて,HSP47が上で述べたのとは異なるメカニズムで腫瘍の生存や薬剤治療抵抗性を亢進することを報告している6).彼らはまずHSP47が細胞増殖シグナル経路のAKTのリン酸化を促進することでがん細胞の増殖促進や5-FUに対する抵抗性を高めることを示した.このAKTのリン酸化促進の原因は,HSP47がAKT特異的な脱リン酸化酵素(PHLPP1,PH-domain leucine-rich-repeat-containing protein phosphatase)と結合して不安定化することで,その分解を誘導することであった.

 以上,ここで紹介したように,HSP47はコラーゲン特異的シャペロンとしての機能のほかに,いくつかのメカニズムでがん細胞の増殖や浸潤・転移を亢進していることがわかってきた.今後,HSP47を標的としたがん治療の研究も期待される.

参考文献

  1. Workman P. Reflections and outlook on targeting HP90, HSP70 and HSF1 in cancer: A personal perspective. In Mendillo et al. (eds), HSF1 and Molecular Chaperones in Biology and Cancer, Advances in Experimental Medicine and Biology 1243, Springer Nature Switzerland AG, pp. 69-85, 2020.
  2. Ito S., et al. Roles of the endoplasmic reticulum-resident, collagen-specific molecular chaperone Hsp47 in vertebrate cells and human disease. J Biol Chem, 294: 2133-41, 2019
  3. Yoneda A., et al. HSP47 promotes metastasis of breast cancer by interacting with myosin IIA via the unfolded protein response transuducer IRE1a. Oncogene, 39: 4519-37, 2020.
  4. Yoneda A., et al. Heat shock protein 47 maintains cancer cell growth by inhibiting the unfolded protein response transducer IRE1a. Mol Cancer Res, 18: 847-58, 2020.
  5. Xiong G., et al. Hsp47 promotes cancer metastasis by enhancing collagen-dependent cancer cell-platelet interaction. Proc Natl Acad Sci USA, 117: 3748-58, 2020.
  6. Chern Y., et al. Heat shock protein 47 promotes tumor survival and therapy resistance by modulationg AKT signaling via PHLPP1 in colorectal cancer. Cancer Biol Med, 17: 343-56, 2020.

用語解説

IRE1a:inositol requiring enzyme-1 a.小胞体内に構造的に異常なタンパク質が蓄積してくると,細胞はそれを解消しようとして異常タンパク質応答(unfolded protein response,小胞体ストレス応答ともいう)を発動する.このときの小胞体内のストレスのセンサーの一つがIRE1aである.ほかにPERKとATF6の二つのセンサーがある.小胞体膜に局在するこれらのセンサーを介して小胞体内のストレスの情報が細胞核に伝えられ,必要な遺伝子が転写翻訳されて小胞体内の異常なタンパク質の分解や,ときにはアポトーシスも誘導される.