磁気共鳴画像ガイド下レーザー組織内温熱療法で治療された神経膠芽腫:その安全性, 効果および臨床成績
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磁気共鳴画像ガイド下レーザー組織内温熱療法で治療された神経膠芽腫:その安全性, 効果および臨床成績
近藤 隆, 黒田 敏*
(富山大学学術研究部医学系・放射線診断・治療学, *脳神経外科学)
アブレーションを含め温熱療法は侵襲性の低い治療として位置づけられているが,課題は加温部位の温度をリアルタイムに可視化できないことにある.最近,レーザー加温法と3次元的に温度分布の測定が可能なMRIを融合させた磁気共鳴画像ガイド下レーザー組織内温熱療法(MRI-guided Laser Interstitial Thermal Therapy,以下LITT)の利用が脳外科領域を中心に進み,特に,脳の深部にある腫瘍や手術適応が困難な腫瘍に利用可能と注目されている.
Washington大学(St Louis, MO, USA)の脳外科のグループは脳腫瘍の治療にLITTを利用しており,最近組織学的に神経膠芽腫と判定されLITTを受けた54名を対象にした後ろ向き研究を報告した1).5年半で,54名(58部位)にLITTを実施した.41例は再発腫瘍であり,17例は初発例であった.40例は脳葉に位置したが,18例は視床,島皮質,脳梁の深部に位置した.平均腫瘍体積は12.5 + 13.4 cm3であった.腫瘍体積全体のうち,黄色表示の熱損傷しきい値(Thermal damage threshold: TDT)線(43 ℃,2 分相当)で治療された領域の平均値は93.3 + 10.6%,青色表示のTDT線(43 ℃,10 分相当)で治療された領域の平均値は88.0 + 14.2%であった.周術期合併症は7例に認められ,死亡は2例あった.全コホートの全生存期間の中央値は11.5か月,無増悪生存期間の中央値は6.6か月であった.術後30日での合併症は9例(脳浮腫3例,けいれん3例,水頭症1例,低Na血症1例,感染1例)あった.合併症の出現と腫瘍体積は相関しなかった.患者の適正な選択が必要であるが,LITTは安全で効果的な神経膠芽腫治療法であることを示した1).同じグループは手術が困難とされる脳梁の神経膠芽腫治療にLITTを利用している.臨床15例について解析を行った.患者の平均年齢は54.7歳,治療前のカルノフスキー指数は80.7,平均腫瘍体積は18.7 cm3であった.片側不全麻痺は26.6%に発生した.合併症頻度は腫瘍体積が>15 cm3を超えると高かった.無増悪生存期間の中央値,LITT後の生存期間,全生存期間はそれぞれ3.4か月,7.2か月および 18.2か月であった.化学放射線療法を併用した手術と比較しても良好な生存期間が示された2).
最近,LITTでは術中磁気共鳴温度測定(Magnetic Resonance Thermometry: MRT)を利用した加温領域の温度情報(ヒートマップ)によって,組織の熱損傷部位の情報を視覚的・定量的に得ることができるようになってLITT技術はさらに進歩しつつある3).LITTの適応は広がっており,腫瘍では神経膠腫(Grade I – IV),転移性脳腫瘍,髄膜腫が対象であり,てんかんの治療としての扁桃体海馬切除術,脳梁離断術,過誤腫等の患部切除にも応用されている.また,脳腫瘍の定位放射線治療後に発生する放射線壊死もLITTの治療対象になっている4).現在,脳腫瘍を対象にしたLITTの臨床研究5, 6)の成果が集積されつつあり,今後の発展が期待される.
参考文献
1) Kamath AA, et al. Glioblastoma treated with magnetic resonance imaging-guided laser interstitial thermal therapy: Safety, efficacy, and outcomes. Neurosurgery, 84: 836-43, 2019.
2) Beaumont TL, et al. Magnetic resonance imaging-guided laser interstitial thermal therapy for glioblastoma of the corpus callosum. Neurosurgery, 83: 556-65, 2018.
3) Munier SM, et al. Understanding the relationship between real-time thermal imaging and thermal damage estimate during magnetic resonance-guided laser interstitial thermal therapy. World Neurosurg, 134: e1093-8, 2020.
4) Ahluwalia M, et al. Laser ablation after stereotactic radiosurgery: A multicenter prospective study in patients with metastatic brain tumors and radiation necrosis. J Neurosurg, 130: 804-11, 2018.
5) Shao J, et al. Lessons learned in using laser interstitial thermal therapy for treatment of brain tumors: A case series of 238 patients from a single institution. World Neurosurg. 2020 Apr 13. pii: S1878-8750(20)30684-7.
6) Shah AH, et al. The role of laser interstitial thermal therapy in surgical neuro-oncology: Series of 100 consecutive patients. Neurosurgery. 2019 Nov 19. pii: nyz424.
用語解説
磁気共鳴画像ガイド下レーザー組織内温熱療法:
ハイパーサーミアの一つであるレーザーサーミアをMRIの診断下で行う試みは1990年代に発表されたが,MRIガイド下での温度測定を一体化させた組織内温熱治療に関する報告は2012年以降となる.現在,MRI誘導脳腫瘍治療用レーザー組織内温熱治療システムとして,the NeuroBlateR System (Monteris Medical, Winnipeg, Manitoba, Canada)とthe VisualaseTM Thermal Therapy System (Visualase Inc., Houston, Texas, USA, 現在はMEdtronic社)の2機種が市場に出ている.共に,MRIを用いた画像取得,温度測定とレーザーによる加温を融合一体化した装置であり,アブレーション輪郭を3次元で監視できる.最小の侵襲による治療を目指しており,後者は細いレーザーカテーテルで直径1.65 mmの使用を特長としている.
神経膠芽腫:
Glioblastoma multiforme(略語はGBM),多形膠芽細胞腫,多形膠芽腫ともいう.神経膠腫の中でGrade(悪性度)IVに分類される.治療は手術に加えて放射線療法および化学療法(テモゾロミド,べバシズム)が行われるが,5年生存率は8~10%と低い.神経膠腫の中で最も多いのは,Grade IIの瀰漫性星細胞腫,乏突起膠腫であり,Grade IIIには退行性星細胞腫,退行性乏突起膠腫がある.
カルノフスキー指数:
Karnofsky Performance Status(カルノフスキー パフォーマンス ステータス)のことで,略語はKPSである. 全身状態をスコア化したもので,患者が日常生活でどの程度活動能力があるかを0~100%までの11段階に分類しているものであり, 100%が正常で症状も出ていない状態で, 数値が下がるにしたがい全身状態が悪いことを示す. カルノフスキーの一般全身状態スコアともいう.