ハイパーサーミア学会

日本ハイパーサーミア学会
38回大会
Online2021 これからのハイパーサーミアに期待されるもの

企画演題

  • 9/3/9:00-10:30

    特別企画

    座長

    藤内 祝明海大学

    浅尾 高行群馬大学

    • SL-0
      ハイパーサーミア普及への取り組み-患者署名活動に端を発した導入-

      藤内祝

      明海大学保健医療学部

      【座長抄録】  近年様々ながん患者を支援する団体が設立され、がん医療の発展に結びついているのは周知のことである。しかし一人の患者の強い思いから県議会を動かし、新しい医療機器の導入に短期間で至った例は極めてまれである。  千葉県において一人のがん患者がハイパーサーミア導入に強い思いで署名活動を行い、21,769名もの署名が集まり公的病院への導入を要望した。このような署名だけでは病院において新しい医療機器の導入までには時間がかかるのが常であるが、ここに医療に対して非常に理解のある県議会議員、また医療の現場で以前よりハイパーサーミアの導入に熱心な医師が偶然と時同じくして存在したことが大きな力となり、短期間で県議会を通過し、千葉県がんセンターの改築と同時に昨年秋に導入された。また県立病院への導入の際、実際に担当する行政官の深い理解も重要である。  今回千葉県においてがん患者の署名活動に端を発し、県議会を動かし千葉県がんセンターにハイパーサーミアが導入された経緯などにつきお話を頂き、ハイパーサーミア普及への取り組みに一筋の光となればと思い、このシンポジウムを企画した。シンポジストには実際に千葉県議会でこの件を熱心に活動された関 政幸先生(前千葉県議会議員)、以前より医療現場でハイパーサーミア導入の運動をされていた千葉 聡先生(千葉県がんセンター)、実際の千葉県がんセンターへの導入で行政官として担当された山崎晋一朗先生(千葉県病院局)、それと本来なら今回の署名活動された患者様を予定しておりましたが、残念にもお亡くなりになられましたので、ハイパーサーミアの普及活動をされておられる伊藤幸恵様(東予がん患者と家族の会)にお願いを致しました。
    • SL-1
      患者側の立場から 愛媛県内での患者側の取り組み

      伊藤幸恵1)福島靖之2)

      1東予がん患者と家族の会(すまいるの会)、2福岡徳洲会病院

      きっかけ ・保険が切られるため、受けたくても受けれないという現状がある。 ・愛媛県にある別の患者会に協力依頼をと願ったが、三大療法でないという理由で上手くいかなかった。 ・患者会本来の患者主体でない患者会が多い。 ・保険適応の治療なのに、全国的にも拠点病院に入っていないので増やしたい。 これまでの活動 ・国保・社保・市や県・議員に相談したが、なかなか聞いてもらえ ない。 村上誠一郎議員は、話を聞いてもらえましたが、もっと活動をしっかい動きなさいとアドバイスされ署名活動を考えました。 ・市・県の壁の厚さに疲れ、親の介護と重なり体調を崩し、中断(入院)せざるを得なかった。 ・2019年から、署名活動を開始しようとしていた。 昨年2月に準備を進めていたが、コロナが影響で活動が出来なくなった。 活動の問題点 • 活動しようと県の会場を借りようとしても、三大療法ではないからと借りれない。 • 患者会に門戸を開いて欲しい。 • 他の県の患者会の動きや共同(情報交換)を目指した。近隣の高知・島根・広島・香川・福岡などを調べた。 • しかし、病院内が多く、三大療法中心で、協調できなかった。 ハイパーサーミアの問題点 • 理解(医療者・支援者・行政・市議・県議ETC.)が得られておらず、患者が求める治療が受けられない。 医師・担当医に相談した時点で、何の説明もなく遮断される。患者は情報は武器となり希望は力あるが希望を失ってしまう。 • 早い段階から治療を受けると体への負担が軽減され完治を目指す。 • 今回千葉県のお話しを聞いて勇気をもらった。 • 恐らく全国にたくさんある患者会が点で活動している。そういった点と点を結び形ある大きく強い力(患者力)にし医療・行政と変えていきたいと願っている。
    • SL-2

      関 政幸

      前千葉県議会議員

    • SL-3
      千葉県がんセンターへのハイパーサーミア導入と治療状況

      千葉 聡1)、柳橋浩男1)、有光秀仁1)、石毛文隆1)、岩立陽祐1)、加藤 厚1)、高山亘2)

      1千葉県がんセンター 肝胆膵外科、2千葉県がんセンター 食道胃腸外科

      当センターは、千葉県の中心部にあるがん治療専門病院で、2019年の手術件数は全科合わせて2916件。診療科も食道胃腸外科、肝胆膵外科、呼吸器外科、泌尿器科、婦人科、乳腺外科、整形外科、脳外科、頭頚科、形成外科、内視鏡科、化学療法科、放射線治療部と診療科も多岐に渡っており、年間15,000件以上の化学療法と13,000件以上の放射線治療が行われている。今回、当センターに通院中の患者さんとご家族のご尽力により、2019年12月の千葉県議会にてハイパーサーミアの導入が可決され、導入検討会を経て2020年10月28日より治療を開始することが出来た。2021年5月31日までに57名、計396件の治療を行った。今回は、医師サイドからの導入に至る道のりと開始直後の治療状況について報告する。
    • SL-4

      山崎 晋一朗

      千葉県病院局病院局長

  • 9/3/10:30-11:00

    理事長講演

    座長

    藤内 祝明海大学

    • P-1
      理事長講演

      古倉 聡

      京都先端科学大学 健康医療学部

      日本ハイパーサーミア学会として、診療報酬改定活動の一環で、長期間に亘りハイパーサーミア治療を行われている症例等に関するアンケート調査を行い、その実態を把握し、今後の診療報酬改定に役立てる目的でアンケート結果を解析したので報告する. また、アンケート調査にご協力いただいた24の医療機関のスタッフの方々に感謝いたします。
  • 9/3/11:10-12:30

    シンポジウム1

    座長

    松本 孔貴筑波大学

    近藤 隆富山大学

    • S2-1
      電磁波を用いたがん治療の工学的基礎と新しい取組み

      伊藤公一

      千葉大学フロンティア医工学センター

      電磁波技術は,がん治療にも大きく貢献している.本講演では,工学的立場から,電磁波を用いたがん治療の基礎と新しい取組みについて概観する.電磁波を用いたがん治療の根拠は,いわゆる熱作用および非熱作用に大別できる.熱作用に基づく代表的な治療法として,ハイパーサーミアおよびアブレーションが挙げられ,使用周波数帯はRFおよびマイクロ波(MW)が主流である.RFハイパーサーミアには誘電加温,誘導加温などがあり,国内では誘電加温が広く用いられている.MWハイパーサーミアは,特にヨーロッパで活発に最先端の研究開発が行われている.アブレーションでは治療の質と効率を上げるため,CT・超音波・MRガイド下RFA/MWAが多用されている.さらに,MWAでは周方向にも治療範囲を限定できる新しいアプリケータの検討も行われている.一方,非熱作用に基づく治療法に関しては,electroporationを用いた電気化学療法や,mEHT(modulated electro-hyperthermia)などの治療実績が数多く報告されている.最近,Peter Wustらのグループが電磁波の非熱作用に関する論文を発表している(例えば,Non-thermal membrane effects of electromagnetic fields and therapeutic applications in oncology. Int J Hyperthermia, 38:715-731, 2021).提案モデルの検証など不明確な点もあるが,興味深い知見を提供している. 新しい取組みの一つとして,米国FDAがMDDT (Medical Device Development Tool) プログラムを発表している(詳細はFDAホームページ参照).アプリケータ等の開発や評価に際して,条件を満たせば,例えば数値シミュレーションをFDAが認証するもので,動物実験等の負担や危険因子を軽減できる.また,近年,“theranostics”が話題となっている.これは“therapeutics”と “diagnostics”を合わせた造語であるが,名前の通り診断と治療を同時にあるいは連続して行う取組みである.これが実現すれば,より的確で迅速ながん治療が可能になるとともに,患者や医療従事者の負担も軽減できることになる.
    • S2-2
      ハイパーサーミア研究 ~創生期の経験から~

      宮越順二

      京都大学生存圏研究所

      「がんが熱に弱い!」という欧米からの情報を1970年代中頃に知った。当時、放射線基礎医学の研究グループに所属していて、大学院に入って間もないころであり、研究テーマが、電離放射線からハイパーサーミアに変更となった。ハイパーサーミアはがん治療法における新しい第5の柱になるべく活発な研究が国際的にも行われ始めていた。ちなみに、手術、放射線、化学療法、および免疫療法が第1から第4の柱であった。ハイパーサーミアの基礎実験としても、加温を温浴でするか、電磁波でするか、温度は何度でするか、当初は全くの手探りであった。ただ、欧米の研究は急速に進んでおり、ある程度の情報はあるものの、今では想像できないほど、正確で詳細な入手にはかなりの時間を要した。培養細胞を主体とした研究を始め、加温は温浴、フラスコまたは密閉シールをしたシャーレ、熱伝導の良いガラス材質を使用した。まず、使用温度の選定は、細胞応答をアレニウスプロットにて求め、試行錯誤しながら行った。研究が進むうちに「温熱耐性」の情報が大きな話題となり、加温方法に制約がかかってきた。逆に、低pH環境やS期依存的に温熱高感受性を示すことなど、治療へと結びつく情報も入ってきた。さらに、細胞研究で、放射線や化学療法との併用により治療効果が期待できると結論づける結果も得られた。以上のように、創生期におけるハイパーサーミア研究に携わった経験を紹介する。
    • S2-3
      温水還流加温と比して、低出力温熱治療(オンコサーミア)は効率的な殺細胞効果と放射線増感効果を示す

      松本孔貴1)2)、菅原裕3)、李宜諾3)、櫻井英幸1)2)

      1)筑波大学医学医療系臨床医学域放射線腫瘍学、2)筑波大学附属病院陽子線医学利用研究センター、3)筑波大学大学院人間総合科学学術院

      新規温熱療法オンコサーミアは、がん細胞膜を特異的標的とした低出力のナノ電流により細胞膜の外部信号経路を介して細胞死を誘導し、低温でも効率的な細胞死の誘導が報告されている。本研究では、オンコサーミア装置(立山マシン株式会社)によるRF波加温処理(OT)と放射線(X線)との併用効果について、ウォーターバスによる加温処理(WB)との差異を明らかにすることを目的とした。各温熱処理による殺細胞効果は温度・時間依存的に増強され、各温度でOTの効果が顕著に優れていた。放射線増感効果でもOTはWBに比べ優れ、温熱増感比は1.6〜3.3と高値を示した。Flowcytometry法を用いて温熱処理後の細胞死形態を調べた結果、アポトーシスおよびオートファジーの温度・時間依存的な増加が確認され、特にOT群では41℃でも顕著な細胞死誘導が確認された。in vivo実験において、OTは41℃ないし42℃の腫瘍内温度を誘導する単独処理で顕著な腫瘍増殖抑制効果を示し、その抑制効果は放射線との併用で一層顕著だった。さらに、間欠的低酸素処理により放射線および薬剤抵抗性を獲得した細胞に対して、OTはWBに比べて顕著な細胞死誘導および放射線増感効果を示した。以上の結果から、放射線との併用におけるオンコサーミアの有用性が示唆されるとともに、温水還流による加温とRF波加温の間で見られる温熱効果の差異の一部を明らかにした。
    • S2-4
      オンコサーミア治療の臨床経験と将来展望

      金森昌彦 佐藤 勉 島 友子 齋藤 淳一 近藤 隆

      富山大学学術研究部(医学系)

      オンコサーミア(modulated electro-hyperthermia, 略称mEHT)は周波数13.56 MHz電磁波を出力変調させて使用する癌温熱治療法である.この手法は加温するという点では従来のハイパーサーミアと同じであるが,腫瘍特性を生かした選択性の高い加温を特徴とする.電磁波出力は150 W,最新機器でも340 W(通常の高周波加温装置の1/10~1/5程度)と低い.装置は治療用円盤型電極とベッド全体のアースを兼ねた対向電極とから構成される. 1) 専用のシールドルームが不要である.2) 出力が低いため,火傷等の有害事象を抑えた治療が可能などの利点がある.これまで開発者であるサース・アンドラーシュ教授(ハンガリー)の協力と富山大学放射線基礎医学講座でのmEHTに関する基礎的研究を基盤に,当大学附属病院では2015年からmEHTの医師主導型臨床試験を開始し,2019年から自由診療として治療を行ってきた.標準治療に抵抗性の症例を中心に約100例の臨床症例を経験した.その中で、乳がんなどでその有効例が認められており,今後のがん治療の選択肢として期待できる. 文献的にはRCT研究も実施されており,Phase IIとしてPangら(腹膜播種)やOuら(肺癌)が報告している.またPhase III研究としてMinnaarら(子宮頸がん)が報告しており,これらについても紹介する.
  • 9/3/13:00-13:30

    総会

    座長

    古倉 聡京都先端科学大学健康医療学部

    • GM-1
      学会活動報告・授賞式

      古倉 聡

      京都先端科学大学 健康医療学部

      学会活動報告・授賞式
  • 9/3/13:40-14:00

    研究奨励賞受賞研究報告

    座長

    大塚 健三中部大学

    • RE-1
      温熱により誘導されるBAG3のがんにおける機能の解明

      柚木達也

      富山大学医学部眼科

      【目的】 がん温熱療法は、様々ながんに適用されその有効性が認められている。しかしながら、温熱抵抗性獲得が問題となっており、この獲得には、分子シャペロンである熱ショックタンパク質70 (HSP 70) が中心的な役割を担うといわれている。HSP70のコシャペロンであるBcl-2 associated athanogene 3 (BAG3) は、ストレス誘導性の抗アポトーシスタンパク質であり、様々ながんにおいて高発現している。このBAG3は種々のタンパク質と相互作用することによって、がんの増殖や生存に関与することが報告されている。今回、ヒトがん細胞を用いて、温熱誘導細胞死におけるBAG3の分子メカニズムを検討することを目的とする。 【方法】 ヒト口腔扁平上皮がんHSC-3とヒト子宮頸がんHeLa細胞を用い、細胞を44℃90分間の温熱負荷後、37℃で一定時間培養した。BAG3の機能阻害の方法として、siRNAによるBAG3ノックダウンHSC-3細胞と、CRISPR/Cas9法によるBAG3ノックアウトHeLa細胞を構築した。また、レンチウイルス発現システムを用いてBAG3を安定的に高発現させた。さらに、BAG3ノックダウンによる温熱感受性増強に関与する遺伝子をGeneChipシステムとバイオインフォマティクスツールを用いて、網羅的に発現解析を行った。 【結果・考察】 BAG3の機能阻害は、温熱誘導細胞死を有意に上昇させ、一方、BAG3の高発現はこの温熱誘導細胞死を有意に低下させた。これらの結果から、BAG3は温熱誘導細胞死に対して細胞保護的に機能すると考えられた。また、このBAG3による温熱感受性の上昇にはJNKシグナル伝達経路が関与していた。BAG3は温熱負荷の直後から速やかに核内に移行し、BAG3の機能発現には細胞内の局在変化が重要であると考えられた。また、網羅的遺伝子発現解析の結果から、細胞死に関与する遺伝子ネットワークにおいて、BAG3ノックダウンはERストレスやオートファジーに関与する遺伝子の発現を増加させた。さらに、細胞死を抑制に関与する遺伝子ネットワークにおいて、BAG3やHSP70 (HSPA1A)を含む多くのHSPファミリーが含まれ、BAG3とこれらのタンパク質との相互作用がBAG3の発現に寄与していると考えられた。BAG3は温熱負荷に対して保護的に機能し、その機能阻害はがん温熱療法における新規の治療戦略になる可能性がある。
  • 9/3/14:10-14:30

    学会賞受賞講演

    座長

    大塚 健三中部大学

    • BS-1
      温熱感受性の修飾に関する基礎的・臨床的研究と今後の展望

      髙橋健夫

      埼玉医科大学総合医療センター放射線腫瘍科

      温熱は43℃以上で顕著な殺細胞効果が認められるが、われわれは40-42℃程度のマイルドハイパーサーミアに着目して研究を継続してきた。この温度域でハイパーサーミア療法は主として放射線療法や化学療法(免疫療法)との併用療法が主体であり、その際、各種治療法と温熱との増強効果の有無が重要となる。われわれはマイルドハイパーサーミアと抗癌剤併用による増感効果、ならびにその機序解明に関する検討を行ってきた。43℃(break point)を境に温熱感受性が大きく異なるが、温熱低用量THP-Adriamycin併用による低温域での顕著な増感効果、break pointの消失等を中心に温熱増感効果について説明する。免疫系の増強効果については温熱免疫製剤併用による腫瘍関連抗原の発現増強効果を中心に説明し、今後の期待される温熱免疫併用療法について言及する。臨床においては局所進行直腸癌に対する術前温熱化学放射線療法の継続的な研究に携わり、温熱による治療効果増強の有無、低酸素環境が局所効果・予後に及ぼす影響、機能画像を用いた治療効果判定の手法等についての研究の成果をお話しする。学会においては現在、本学会初のハイパーサーミア診療ガイドライン発刊に向けた作業に携わっているが、ガイドライン発刊がハイパーサーミア療法の普及におけるターニングポイントになることを期待している。この度は学会賞受賞講演として、今日まで多くの先生方の多大なるご指導ならびにご協力を得て進めてきた温熱増感効果の基礎的・臨床的研究と、今後のハイパーサーミア療法ならびに本学会の展望について述べたい。
  • 9/3/15:00-15:50

    教育講演

    座長

    大西 健茨城県立医療大学

    • EL-1
      ハイパーサーミア研究40年を振り返って-HSPとがん-

      大塚健三

      中部大学応用生物学部

      演者は1981年4月、愛知県センター研究所に赴任して以来、ハイパーサーミア研究に従事してきました。当初は中村弥(なかむらわたる、故人)部長のもと、マウスでの全身ハイパーサーミアによるがん治療を試みていましたが、基礎の研究者ということもあり、その後熱ショックタンパク質(heat shock proteins, HSPa)の研究に専念してきました。 1982年には中村先生が共同世話人として、名古屋の地でハイパーサーミア研究会(当時はまだ研究会で、学会になったのは1984年)を開催しました。 1986年11月から88年10月までの2年間のアメリア留学を終えて帰国後、新しい熱ショックタンパク質を探索している過程で、哺乳類の新しい熱ショックタンパク質として1990年にHSP40を発見しました。HSP40はバクテリアのDNAJタンパク質の相同体であることが判明し、機能解析などを行うとともに、多くのHSP40(DNAJ)ファミリーメンバーの命名法も提案しました。 2001年4月からは中部大学に赴任してからは、HSPsの誘導体を探索し、ペオニフロリンを同定しました。 ここ十数年の間、多くの研究によってHSPsががんの促進因子であることが判明してきました。その観点から、HSPsを標的としたがん治療の開発も有望視されています。 日本の、また世界のハイパーサーミア研究のさらなる発展を期待しております。
    • EL-2
      がん細胞の一生 (ゆりかごから、成長・独り立ち)を担うHsp47の役割と治療法開発 (墓場まで)

      田村保明、米田明弘

      北海道大学産学地域協働推進機構難治性疾患治療部門

      Hsp47はコラーゲン特異的な小胞体常在シャペロンとして、永田らによって同定された。様々なコラーゲンの立体構造形成に必須の蛋白質であり、主に線維芽細胞や肝臓・膵臓の活性型星細胞といったコラーゲン産生細胞に高発現している。Hsp47を欠損した線維芽細胞では、小胞体内での正確な立体構造を維持したプロコラーゲンが形成されず、異常プロコラーゲンとして過剰に蓄積される。その結果、小胞体ストレス応答が誘導され、細胞死が起こることが示されている。またHsp47は小胞体に存在するストレス蛋白質のうち、唯一の熱ショック誘導性を有することも特徴である。Hsp47は、コラーゲンの異常合成を示す肝硬変や肺、腎臓の線維症などの臓器線維症において高発現していることから、原因細胞である線維芽細胞のHsp47の発現をアンチセンスオリゴやsiRNAを用いて抑制する治療法が開発されている。  また、Hsp47は様々ながん細胞においても発現していることが報告されており、その発現増加はがんの悪性度や予後不良と相関していることが明らかにされている。我々は、がん細胞に発現しているHsp47が、小胞体においてコラーゲン以外のいくつかの蛋白質と相互作用することで、がん細胞の”成長” (生存・増殖) から”独り立ち” (浸潤・転移) 、さらには抗がん剤耐性に関わることを明らかにしている。すなわち、Hsp47は小胞体ストレス応答の主役分子であるIRE1αと会合して、がん細胞内外からの小胞体ストレス応答を軽減することでがん細胞の生存・増殖に関わっている。さらに、Hsp47はIRE1αを介して、細胞運動に関わるミオシンIIAを制御することで、がん細胞の浸潤・転移を促進する。一方、がんの微小環境にはコラーゲンを産生するがん関連線維芽細胞 (CAF) が存在する。CAFから産生されたコラーゲンを含む細胞外基質はがんにとって”ゆりかご”となる都合の良い生育環境を形成する。ここにもHsp47が非常に重要な役割を果たしている。このように、がん組織では、Hsp47が高発現して一連のがんの進展に深く関与している。さらに最近の研究では、がん細胞に発現しているHsp47が抗がん剤耐性に寄与していることも明らかにされた。従ってHsp47を標的とした特異的阻害剤やsiRNAを含む核酸を用いた遺伝子発現抑制を併用することで、抗がん剤単独では奏功しなかった難治性がんの治療成績を劇的に改善する可能性が示唆される。またハイパーサーミアの条件下では先に述べたようにHsp47の発現が増強し、治療抵抗性に関わっていることが予想されるので、Hsp47を標的とする治療はハイパーサーミアの奏功率も向上させると考えられる。本教育講演では、最近次々と明らかになってきた、がんにおけるHsp47の役割について紹介する。 参考文献 1) Yoneda, et al. Mol Cancer Res. 2020 2) Yoneda, et al. Oncogene 2020 3) Yoneda, et al. Cancer Sci. 2021
  • 9/3/16:00-17:50

    シンポジウム2

    座長

    石川 仁量子科学技術研究開発機構 QST病院

    • S1-1
      膵癌に対する放射線治療の現在地と今後の展望

      野中哲生

      日本赤十字社医療センター放射線腫瘍科

      国立がん研究センターがん情報サービスによると,2020年の本邦における膵癌の罹患数は全体の7位,死亡数は4位と予測されている.また,罹患数と死亡数に大きな差はなく,5年相対生存率は男女ともに10%未満であることから予後不良な悪性腫瘍であるといえる.膵癌に対する治療の第一選択は外科的切除であり,完全摘出の可否が予後に大きく影響する.したがって,遠隔転移がない症例の病期診断にはTNM分類のほかに局所浸潤の評価による切除可能性の診断が用いられ,切除可能(resectable: R),切除可能境界(borderline resectable: BR),切除不能(unresectable: UR)に分類することが提唱されている.RおよびBR症例に対する放射線治療は組織学的な残存症例に対する術後照射や,BR症例におけるダウンステージングを目指した術前化学放射線療法として施行されることが多い.一方,遠隔転移を認めないUR症例では根治的な治療として化学放射線療法が選択されることがあるが,これまでの臨床試験の結果から現時点では全身化学療法単独との優劣は明らかではない.膵癌は解剖学的に十二指腸や胃といった放射線感受性が比較的高い臓器や,腎臓および肝臓が近接していること,さらに呼吸性に移動することなどから,従来の放射線治療では十分な線量を投与することが困難であった.また,他の癌腫にくらべ低酸素細胞の割合が高いことが知られており放射線治療に対する反応が不良とされてきた.今回は近年広く普及したIMRTやSBRT,さらに粒子線治療といった高精度の放射線治療を中心に,最近の知見や今後の展望について述べる.
    • S1-2
      低酸素バイオロジーの視点で見るハイパーサーミアによる放射線増感

      原田浩

      京都大学大学院生命科学研究科がん細胞生物学

      悪性固形腫瘍内には血管から十分な酸素が供給されない低酸素環境が存在し、そこでがん細胞は低酸素応答機構を活性化して放射線抵抗性や悪性形質を獲得することが知られている。我々は、低酸素がん細胞に対するlineage tracing experiment(細胞系譜実験)を実施し、放射線治療後の再発がんを構成する60-70%のがん細胞が、原発腫瘍内の低酸素領域に由来することを証明した(Harada et al. Nat Commun. 2012)。また、低酸素がん細胞の放射線抵抗性を亢進する新規遺伝子UCHL1を同定し、その作用機序を解明するとともに(Goto et al. Nat Commun. 2015)、放射線照射を受けたがん細胞が損傷DNAを修復して生存を図るか細胞死(アポトーシス)を選択するかの決定機構を解明してきた(Maruoka et al. Mol Cell. 2021)。さらに近年、低酸素分画に富む膵臓がん組織が形成されるメカニズムとして、がん細胞と線維芽細胞のクロストークが重要であることを見出している。本講演では、我々が進めてきた「がんの低酸素バイオロジー研究」を紹介するとともに、そこから見えてきた「ハイパーサーミアによる放射線増感の論理的妥当性」を議論したい。
    • S1-3
      膵癌診療における温熱治療の意義と温熱増感効果を期待した膵臓がん治療ツールの開発

      横堀 武彦、Bilguun Erkhem-Ochir, Navchaa Gombodorj

      群馬大学 未来先端研究機構 統合腫瘍学研究部門

      膵癌は代表的な難治性消化器癌であり手術、化学療法、放射線療法などを併用した集学的治療を用いた積極的な治療を行っても切除不能、再発症例の予後は不良である。膵癌診療における温熱治療は放射線や化学療法などDNAダメージをがん細胞に誘導する治療ツールの増感効果を期待してこれまで研究がなされてきたが、大規模なRCTの結果はこれまで報告されておらず今後のさらなる検討が待たれる。一方、がん細胞のDNA保護作用/修復機構を標的とした分子標的治療と温熱療法を併用する意義についてはこれまで十分に検討されていない。本発表では新規温熱増感ツールの開発を目指したわれわれの基礎的研究データについて報告したい。
    • S1-4
      膵癌に対する温熱療法併用化学陽子線治療

      廣嶋悠一1), 2)、石川仁1)、村上基弘2)、馬場敬一郎2)、清水翔星2)、飯泉天志2)、斎藤高2)、沼尻晴子2)、水本斉志2)、中井啓2)、奥村敏之2)、櫻井英幸2)

      1)国立研究開発法人 量子科学技術研究開発機構 QST病院、2)筑波大学医学医療系 放射線腫瘍学・陽子線医学利用研究センター

       近年、医学の飛躍的な進歩によって多くの癌における治療成績は向上したが、膵癌、特に切除不能膵癌の治療成績は未だ極めて不良であり、革新的な治療法の開発が必要である。  切除不能膵癌に対して化学放射線療法が行われるが、X線を使用した従来の放射線治療では、膵臓と消化管等との解剖学的位置関係から、50Gy程度が投与可能な最大線量であり、これは膵癌を制御するには不十分な線量であった。近年、強度変調放射線治療や定位体幹部放射線治療を代表とする高精度放射線治療が普及し、膵癌に対する線量増加の試みが行われてきたが、高線量が照射される領域は標的体積の一部に限られる場合が多かった。  筑波大学では1983年から深部腫瘍に対する陽子線治療を開始し、これまでに約6400例の治療を行った。陽子線は加速器での付与エネルギーに依存して、体内に入射後、飛程の一点で最大エネルギーを周囲に与え、それより深部には影響を及ぼさない特徴がある。この特性を用いて消化管等の周囲臓器に深刻な有害事象を出さずに膵癌への照射線量を増やし治療効果を高めることを目的として、陽子線治療を用いてきた。  さらに膵癌は低血流・低酸素状態であることから、放射線治療および化学療法抵抗性であることが知られている。そこで我々は化学療法、陽子線治療に温熱療法を同時に組み合わせることで、膵癌の血流・酸素化を改善し、治療効果の向上を目指してきた。  本シンポジウムでは、局所進行・切除不能膵癌に対する温熱療法併用化学陽子線治療の実際と、当院での臨床経験を提示する。
    • S1-5
      膵癌に対する重粒子線治療

      寺嶋広太郎1)、篠藤誠1)、末藤大明1)、松延亮1)、福西かおり1)、戸山真吾1)、塩山善之1)

      1. 九州国際重粒子線がん治療センター

      重粒子線治療は炭素イオンを光速の約70%まで加速して体外から照射する外部照射の一つである。1994年より放射線医学総合研究所(現QST病院)で臨床応用が開始され、これまで様々な悪性腫瘍において良好な治療成績が報告されてきた。実施施設も全国に7施設となり、保険診療として骨軟部腫瘍、前立腺癌、頭頸部がんの一部、先進医療として膵癌、肺癌、食道癌、肝癌、大腸癌術後再発、婦人科腫瘍、オリゴ転移に対して治療を行っている。 膵癌に対する重粒子線治療は、主に切除不能局所進行例に対する根治治療として55.2Gy(RBE)/12回での治療を行っている。膵臓は、解剖学的に消化管が近接しているため投与線量が制限されてしまうことがしばしば問題となるが、重粒子線ではその優れた線量集中性を生かして大線量を投与することによって局所効果の向上が期待できる治療である。ただ、膵癌は遠隔病変をきたしやすいこともあるため、通常は抗癌剤治療も併用した集学的治療を行っている。重粒子線多施設の後方視的解析では、72例の局所進行膵癌に対する重粒子線治療で、全生存割合1年 73%、2年 46%と良好な成績を示している。また、九州国際重粒子線がん治療センターにおける75例の長期解析においても、観察期間中央値48か月で、全生存割合3年 26%、4年 19%と良好な成績を示しており、長期生存に対しても局所治療が寄与できることが示唆されている。 本シンポジウムでは、膵癌に対する重粒子線治療の現況について報告するとともに、ハイパーサーミアを併用した症例について紹介する。
  • 9/4/9:00-10:20

    シンポジウム3

    座長

    森 英一朗奈良県立医科大学

    田渕 圭章富山大学

    • S2-1
      相分離生物学:分子集合状態と分子シャペロンによる制御

      森 英一朗

      奈良県立医科大学

      生体分子が集合して機能する現象を生物学的相分離と呼び、近年注目を集めている。従来構造を持たないと考えられてきた天然変性タンパク質が、生物学的相分離の駆動において重要であることが明らかになり、タンパク質の構造解析にも新たな風を吹き込んだ。ハイパーサーミア領域では、温熱に対する応答因子としてHeat Shock Proteins(HSPs)が古くから知られており、分子シャペロンとして機能することで、タンパク質分子の折り畳みや安定化に寄与していると考えられてきた。最近では、生物学的相分離の制御因子としての分子シャペロンの機能が改めて注目されるようになってきている。本シンポジウムでは、分子の集合状態の制御における分子シャペロンの役割について、最新の知見を交えながら議論を行いたい。
    • S2-2
      相分離を介した核内ストレス顆粒の形成は温熱抵抗性に関与している

      渡邉和則1)、的野恭平1)、大槻高史1)

      1 岡山大院統合科学

      【背景】生物は温熱に曝されるとストレス応答を引き起こすことで温熱に抵抗し、生存することができると考えられている。ストレス応答の1つとして、核内ストレス顆粒(nSBs)が形成されることが報告されている。RNA結合タンパク質とRNAから構成されているnSBsは相分離を介して形成されることが報告されている。これまでnSBs構成タンパク質の機能解析を介してnSBsが温熱抵抗性に関与していると考えられている。しかし、nSBsの形成自体が温熱抵抗性に関しているのかは明らかになっていない。 【目的】nSBsの形成が温熱抵抗性に関与しているのか明らかにすることを目的とした。 【方法】nSBsの形成タンパク質の形成を抑制する薬剤の探索を行った。またHSF1, SAFB顆粒の形成を抑制するSB366791およびヘキサンジオールを用いることで、温熱による細胞増殖抑制への影響を測定した。 【結果】SAFB顆粒の形成はTRPV1アンタゴニストであるSB366791を用いることで抑制できた。また、HSF1, SAFB顆粒の形成はヘキサンジオールにより抑制できた。また、SB366791およびヘキサンジオールを用いることで、リカバリー時のHSP27、HSP70の発現上昇が抑制されることで温熱によるアポトーシス誘導が増幅され、細胞増殖抑制が増幅されることが明らかになった。 【結語】核内ストレス顆粒の形成は温熱抵抗性に関与していることが示唆された。
    • S2-3
      相分離性タンパク質FUSとその制御タンパク質karyopherin-β2

      吉澤拓也

      立命大生命

      RNA結合タンパク質とRNAの相分離によるRNA顆粒が様々な細胞機能の調節を司ることが明らかとなってきた。RNA結合タンパク質のなかでも、Fused in Sarcom (FUS)は相分離研究の代表的なタンパク質として、研究が進められている。FUSの相分離はさまざまな因子によって制御されるが、温度もその因子のひとつである。演者らは各種変異体のFUSの相分離の温度依存性解析を行ない、相分離に重要な領域を明らかとした。また、FUSは主に核内で機能するタンパク質であり、核内輸送受容体karyopherin-β2によって核内へと輸送される。演者らは、karyopherin-β2がFUSを核内へと輸送するだけでなく、相分離を制御するシャペロンとなることを明らかとした。この相分離の抑制には、FUSの核移行シグナル領域との相互作用が重要であった。FUSの核移行シグナル領域の変異は、重篤な神経変性疾患であるALSとの関連が示唆されている。変異体の中でも、点変異であるFUS(P525L)変異体とNLSが欠失するFUS(R495X)変異体について、Karyopherin-β2との相互作用解析を行なったところ、karyopherin-β2はFUS変異体の相分離を部分的に制御可能であった。このFUS変異体に対してのkaryopherin-β2の相分離抑制能は、野生型FUSに対してものと比較すると抑制能が低下していることから、徐々に異常なタンパク質が蓄積することが病態で見られる凝集沈着物となることが示唆された。
    • S2-4
      相分離制御因子と分子シャペロンの動的構造基盤

      齋尾 智英

      徳島大学 先端酵素学研究所

       タンパク質、特に特定の高次構造を持たない天然変性タンパク質の弱く動的な相互作用によって形成される液-液相分離現象が注目を集めているが、その制御についての詳細なメカニズムは未解明である。最近の研究によって、相分離を制御する「相分離シャペロン」と呼ぶべきタンパク質群が明らかになりつつある。相分離シャペロンの多くは、従来は別の生命プロセスを制御する分子として認知されていたものが、相分離現象の発見により、その機能の新たな側面が明らかになったものである。その代表例として、核-細胞質間物質輸送を担うカリオフェリンβ2 (Kapβ2)、タンパク質フォールディングの制御因子であるHeat Shock Protein (HSP) やプロリンシス-トランス異性化酵素 (PPIase) などの分子シャペロンが挙げられる。  演者はこれまでに、核磁気共鳴 (NMR) 法などの物理化学的手法を用いてPPIaseシャペロンであるTrigger Factor (TF)に対する構造生物学研究に取り組み、基質認識やフォールディング制御における作用機序を明らかにしてきた。さらに、核輸送因子Kapβ2に対する解析についても取り組み、Kapβ2の相分離制御機能が筋萎縮性側索硬化症関連因子によって阻害されるメカニズムの一端を明らかにした。本発表では、TFシャペロンおよびKapβ2についての研究成果を報告するとともに、これまでの分子シャペロンについての理解が相分離制御の理解にどのようにつながるのか議論する。
  • 9/4/10:30-11:30

    シンポジウム4

    座長

    大栗 隆行産業医科大学

    • S3-1
      スマホを用いた登録システム開発と学会事業としての患者レジストリ

      浅尾高行、井手野由季

      群馬大学数理データ科学教育研究センター

      臨床試験にかかるコストと時間が膨大で、それに見合うOutput が得られにくいことや、限定された対象症例によって得られた結論が実臨床に一致しないという指摘から、厚生労働省のCIN( Clinical Innovation Network 2015年) 構想では、患者レジストリ(疾患登録情報)を医薬品や医療機器の承認や適応拡大に使用する方針が示され、2020年には薬機法が改正され、医療機器において患者レジストリ登録を条件とした承認制度が導入された。  このような背景の元、群馬大学数理DSセンターでは、ビックデータ解析に用いられているNoSQL型のデータベースを採用した患者レジストリーシステム(G-Registry)を開発し、日本女性医学学会の運営するホルモン補充療法の患者レジストリーに実装してきた。  G-Registryは、項目の追加や選択肢の変更が後から可能、患者の選択肢による設問の分岐、スマートフォンを用いた一画面一問一答のGUI を特徴とし患者自身が自分の症状やQOLを入力するPatient reported outcome(PRO)にも対応した次世代型のEDCである。  ハイパーサーミアにおいては、すでに上乗せ効果について多くの論文がPublishされており、新たな従来型臨床試験は倫理的にもコストの面でも現実的ではない。ハイパーサーミアのエビデンスの構築と新たな適応拡大にむけ、学会事業として患者レジストリーの構築を急ぐ必要がある。
    • S3-2
      全国アンケート調査からみたハイパーサーミア業務の現状と今後について

      大田真1)、三浦幸恵1)、長瀨英梨1)、灘吉進也1)、鞆田義士 2)、宮國泰弘2)、丸山祐二2)今田肇2)

      1 戸畑共立病院 臨床工学科、2 戸畑共立病院 がん治療センター

      ハイパーサーミア(以下HT)は,1984年に厚生労働省の認可を受け,がん集学的治療の一環として行われている.現在,稼働施設は100施設を超え年々、普及の兆しがみられる中,施設間の情報共有を図ることは,治療の標準化に繋がる有用な取組みと考える. 今回,本邦におけるHT稼働施設に対し,各施設の現状を理解し,今後の課題について共有することを目的にアンケート調査を実施したので報告する. 調査期間は2021年1月10日~2月10日とし,WEBアンケート(Googleフォーム)にて実施した.対象は,HT治療装置設置施設とし,担当職種,装置保有台数,治療件数,認定資格の有無,治療時の医師の立ち合い状況,マニュアルの有無,保守管理体制,教育体制など全23項目について設問した. 結果については本発表での報告となるが,アンケート調査を実施したことで各施設の実態が明らかとなり有用な情報を得ることができた.今後はこれらの情報に加え,症例数や部位別内訳,ステージ分類,治療効果など,ガイドライン策定や診療報酬増点に有益な臨床データにおいても収集し,活用できるシステムの構築が必要と考えられた.
    • S3-3
      診療報酬の現状と未来:特に放射線治療/ハイパーサーミアについて

      黒﨑弘正、内海暢子、三浦航星

      JCHO東京新宿メディカルセンター放射線治療科

      1990年にハイパーサーミアが放射線治療併用にて保険収載されてから30年以上が経過した。この間1994年に放射線治療併用でなくても保険適応となっている。その後、四半世紀に渡って変化なく、この間に消費税が上昇したことや物価のことを考えると、年々ハイパーサーミアはより安価に提供していたということになろう。 2020年に長い努力が実り、一連が2か月ごとに3回となった。歴代の保険改定委員会委員長の努力だけでなく、会員・メーカー皆が努力した成果と考えているが、なおそのコストに対して見合わないものとなっている。 今後も一致団結して診療報酬の改定に努力をしていかなくてはならないが、方針として、・今の一連について増額を求めるのか ・一回当たりの診療報酬を目指すのか ・選定医療(制限回数を超える医療行為) を目指すのかいろいろなところを決めていかねばならないところである。また診療報酬改定には・エビデンスの構築 だけでなく ・ガイドラインが必要となっている。これらについて概説するとともに、大規模データベースの作成の必要性について説明を行う。
  • 9/4/11:40-13:10

    企業セミナー

    座長

    山本ビニター株式会社

    • CS-1
      治療効果を上げるためのサーモトロンの使い方

      今田肇

      戸畑共立病院がん治療センター

      当院では、サーモトロンの新型を導入し、今年度中にすべてが新型になる予定である。当院におけるハイパーサーミアは、ほとんどの場合、化学療法の増感に使用されている。治療効果を上げるためのサーモトロンの使い方の中で、最も重要な点が、低容量の抗癌剤でのハイパーサーミアによる増感効果と考えている。ガイドラインを基本遵守しつつ、どのような場合にそれを適応するかといった明確な基準はないため、効果、有害事象のバランスに配慮して判断している。腫瘍の性格(増殖スピード、局在性と広がり)、患者の全身状態、免疫状態などを加味して、ハイパーサーミアによる抗癌剤の増感を生かした集学的治療を行っている当院の考え方を紹介する。
  • 9/4/13:20-14:40

    シンポジウム5

    座長

    齊藤一幸千葉大学

    黒田輝東海大学

    • S5-1
      深部加温を目的とした開放型空胴共振器加温システムの開発

      新藤康弘1)、加藤和夫2)

      1東洋大学理工学部機械工学科、2明治大学理工学部機械情報工学科

       これまで我々の研究グループでは、深部集中加温を目的とした加温システムとして、空胴共振器加温システムの開発を行ってきた。ハイパーサーミア分野のみならず温熱リハビリテーション分野でも臨床応用を進め、本加温システムの有効性を示してきた。変形性膝関節症を対象とした温熱リハビリテーションでは、小型の空胴共振器を開発し脚部を挿入することで深部集中加温を実現している。しかし、多くの患者は脚部の屈曲や伸展が困難であり、アプリケータ着脱の際に時間がかかってしまうケースもあった。そこで、本研究では臨床における作業効率を向上させるために、アプリケータ着脱をより簡便に行うことができる、開放面を持った新たな空胴共振器アプリケータの開発を行った。  本加温システムの特徴として電磁気学的共振現象を用いているため、導体壁が大きく欠損した状態では共振することが理論的に困難であり、加温エネルギを集中維持することができない。そこで本研究では、空胴共振器壁面に取り付けた電磁シールド形状を工夫して設計することで、脚部挿入時に目的部位の深部集中を実現した。  本研究では、FDTD法による電磁界温度分布連成解析結果および、試作加温装置を用いた筋肉等価寒天ファントムの加温実験結果の両面から検討を行った。解析結果、実験結果ともに被加温体の深部集中加温を確認し、本研究で提案する開放型空胴共振器の有用性を示した。今後は、本研究で設計したアプリケータの臨床応用研究を予定している。
    • S5-2
      ロボット手術への適用を目指したマイクロ波エネルギーデバイスの開発

      齊藤一幸1),西舘嗣海2)

      1 千葉大学フロンティア医工学センター,2 千葉大学大学院融合理工学府

      今日の外科手術では,従来の開腹手術のみならず,腹腔鏡手術や内視鏡的手術,さらには,ロボット手術といった低侵襲な手技が広く行われ,患者のQuality Of Life (QOL)が飛躍的に向上していることは言うまでもない.これらの手術では,生体組織の切開や止血を同時に行うことができるエネルギーデバイスが多用されており,この代表格が電気メスである.ところが,電気メスによる処置時には大量の煙が生じ,低侵襲手術の遂行を妨害することがある.また,これに加えて,安全性の面でも原理的に解決し難い問題がある.ところで,我々はこれまで,マイクロ波組織内加温によるハイパサーミアを実現すべく,この手技に用いるための微細径アンテナの開発を行った.この際に,強力なマイクロ波を生体組織に作用させると,この部分が高温に加熱され組織の凝固が生じるものの,電気メスのように煙が生じることもなくクリーンな術野が確保できる可能性があることがわかった.そこでこの特長を生かし,微細な手技が要求されるロボット手術にも適用可能なマイクロ波エネルギーデバイスの開発を目指すこととした.マイクロ波デバイスには,上述のような特長があるものの,そのサイズはマイクロ波の波長に依存するため,単に小さなデバイスを作製しても発生する加熱領域のサイズが小さくなるとは限らない.そこで本研究では,計算機シミュレーションやファントムを使用した実験を通して,ロボット手術にも適用可能なマイクロ波エネルギーデバイスを開発することを目標とした.これまでの検討により,従来のものよりも小さな加熱領域を発生させることが可能なデバイスの構造が明らかになりつつあるので,今後さらに継続し,ロボット手術用エネルギーデバイスとして,マイクロ波エネルギーを利用した器具が選択肢の一つになるよう努力していきたい.
    • S5-3
      レーザ加温治療における数値計算の役割

      鷲尾利克1)、鈴木志歩2)、荒船龍彦3)、黒田輝4)、松前光紀5)

      1国立研究開発法人産業技術総合研究所健康医工学研究部門、2東京電機大学大学院先端科学技術研究科、3東京電機大学理工学部、4東海大学情報理工学部、5東海大学医学部

      温熱療法には、患部の十分な加温と正常組織の温存が、相反する条件で成り立つ難しさが存在する。熱ショック蛋白質(以下、HSP)は分子シャベロンとして蛋白質の形状を整える働きがあり、その発現は低温度における十分な加温が必要となる。HSPの存在は繰り返しの熱刺激に対する正常組織の維持に有益であるが一方、患部の治療ではHSPの影響を受けない状況での加温が必要となる。本稿では、レーザによる局所加温によりHSPの影響を受けにくいレーザ加温のプロトコルを検討するために数値シミュレーションを行ったので報告する。 開発したシミュレーションプログラムは、光については定常とし、温熱に関しては非定常解析を行っている。温熱を非定常で計算しているのは、加温対象である腫瘍全体が十分加温されるまでの時間を検討し、より効果的な治療プロトコルの参考にするためである。 作成した数値シミュレーションはまず、3dSlicer上で使用可能な定常解析のレーザ加温シミュレーションのアドオンソフトウェアでの温熱域およびその温度状態と比較検討し、その後HSPの影響を検討した。また、レーザ加温で使用する各種プローブの開発において、プローブ表面での温度情報およびその温熱域形状を数値シミュレーションで明らかにしたので、 検討したプローブについて報告する。
    • S5-4
      動的磁化率コントラストMRIによる血液灌流量計測に基づく脳腫瘍周囲の熱輸送率の画像化

      八ツ代 諭1,2, 堀江朋彦3,厚見秀樹4,松前光紀4,鷲尾利克5,荒船龍彦6,黒田 輝1,7

      1東海大学情報理工学部情報科学科,2バイオビュー(株),3東海大学医学部附属病院診療技術部放射線技術科,4医学部外科学系脳神経外科学領域,5産業技術総合研究所健康工学研究部門,6東京電機大学理工学部電子工学系,7千葉大学フロンティア医工学センター

      【背景】熱源からの熱吸収に対して,組織温度を決定する要因は,熱伝導,代謝熱,ならびに血流による熱輸送である.このうち血流による熱輸送は最も影響が大きいが,これをヒト脳内で時空間に渡って可視化した例は見られない.そこで本研究ではレーザによる脳腫瘍治療の計画・制御のために,造影MRIによる灌流量計測に基づく熱輸送率の画像化を試みた.【方法】3T MRIにより脳腫瘍患者(N=5)に対して,ガドリニウム造影剤投与後の動的磁化率コントラストを勾配磁場エコー法により撮像した.条件はTR, 1365.5 ms; TE, 7.9/54.7 ms; FOV, 224 × 220 mm2; slice thickness, 5 mmとした.中大脳動脈内の血液における時間-濃度関数を入力,組織における時間-濃度関数を出力として,入出力の逆畳み込み積分により脳血流量を求めた.これに血液と周囲組織の温度差,組織・血液の密度などを与えることにより,熱輸送率[W/m3]の画像を得ることができた.良性腫瘍である髄膜種の場合には腫瘍内部においても熱輸送率が高く,悪性腫瘍である膠芽腫の場合には熱輸送率が低いことなどが明確に示された.【結論】脳腫瘍レーザー治療の計画における組織温度と共に変化する熱輸送率の入力値を得るための方法を提案した.今後は光拡散方程式と組み合わせることにより腫瘍の局所温度を反映したシミュレーションを実施する必要がある.
  • 9/4/14:50-16:50

    シンポジウム6

    座長

    櫻井英幸筑波大学

    • S6-1
      エックス線診療車における感染防護対策の紹介

      三澤雅樹1)、廣木昌彦2)、鷲尾利克1)、新田尚隆1)

      1産業技術総合研究所、2筑波メディカルセンター病院

      病院外で新型コロナ陽性患者のメディカルチェックを行うため、オンライン診療設備と感染防護診療室を備えたエックス線診療車(Infection-Controlled X-ray Care Unit: ICXCU)を開発した。車内を区画分離し、清潔エリアから診察エリアに一方向気流を発生させるとともに、低濃度オゾン発生器やUV照射で空気を清浄化し、抗菌フィルムコーティングした診察室で、二次感染を防止する。また、オンライン診療機能を装備し、胸部エックス線画像を、遠隔の診察室にいる専門医に転送できる。当該システムは、新型コロナ対策のみならず、災害時の医療拠点としての利用や、オンライン診療を活用した医療へき地の格差是正など、アフターコロナでの活用も期待できる。
    • S6-2
      筑波メディカルセンター病院のコロナ下における診療体制

      廣木昌彦1)、飯島 弘晃2)

      1筑波メディカルセンター病院脳神経内科、2同呼吸器内科

       筑波メディカルセンター病院は感染症指定病院、地域医療支援病院、救命救急センターとして、茨城県南部の新型コロナウイルス感染症対策に取り組んでいる。具体的には一般発熱外来、救急外来、陽性患者入院、重症者入院、在宅療養患者に対応し、更にコロナウイルスPCR検査及び陽性患者のメディカルチェック(MC)を実施している。このため一般病棟の一部を削減し中等症専用病棟を、集中治療室の一部を改築して重症者専用病棟を新設し効率的な診療ができる体制を整えた。診療体制の変更にともない,スッタッフの配置変更が必要となっているが、一定期間コロナ病棟に勤務したあとは,負担軽減のため一般病棟に戻るようローテーションを組んでいる。  当院はまた、茨城県地域がんセンターとして、早期診断から治療、緩和医療まで包括的な診療を行っている。コロナ感染症拡大により、院内感染が起きないよう、細心の注意を払って診療を行っている。積極的なPCR検査、状況に応じて個室へ隔離する、入院中の外出、家族の面会禁止などの対策を取りながら、がん診療における検査、治療に遅延が生じないようにしている。外出、家族の面会禁止などの措置により、患者、家族への心理的負荷が問題になっている。また、コロナウィルス感染拡大を懸念し、検査、通院を自己中断してしまう例も問題になっている。  コロナウイルスPCR検査は当院はドライブスルー式で週6日、1日最大200人にも及んでいる。PCR陽性患者のMCも同様に週6日、1日最大8人を対象とし、問診、体温、酸素飽和度測定を患者の車の窓越しに、胸部エックス線撮影と血圧測定は陰圧テント内で施行している。最後に医師が判定し保健所に報告している。  今回、感染防護対策された遠隔通信機能をもつエックス線診療車が開発された。間もなく当院でMCを目的に運用開始となる。これにより、MCスタッフと患者との接触の機会が大きく減少し、医療情報の伝達が効率化し、さらに患者の待機施設等に出動することで、MCのオンライン診療が可能となり、患者、保健所、医療従事者の負担の大きな軽減になると考えられる。
    • S6-3
      高機能感染防護エックス線診療車(Infection-Controlled X-ray Care Unit: ICXCU)における感染症患者の胸部エックス線撮影プロトコル

      小林智哉

      茨城県立医療大学 放射線技術科学科

       胸部エックス線検査は、感染性肺疾患の診断において必要不可欠であり、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の病状を把握するための検査(Medical Check: MC)でも検査実施が強く推奨されている。現在実施されているMCのための胸部エックス線撮影は、特設の陰圧テントなど固定された場所で行うことが多く、感染対策も万全ではない。一方でMCは、軽症者が多く滞在している療養施設、保健所などの感染者と健常者が混在する検査統括機関で実施されることも想定され、可動性と感染対策が望まれる。  このような背景から、感染予防策を施した移動検査機関の有効性が高まり、我々は高機能感染防護エックス線診療車(Infection-Controlled X-ray Care Unit: ICXCU)を開発した。ICXCUの車内は気流が発生しており、車内の医療スタッフ(主に診療放射線技師)が常に気流の上流にいることでエアロゾルからの感染を予防できる。また予めMC実施患者に車内の様子と検査内容を知らせ、不要な接触を減らすよう指示することで、清掃や消毒を減らすことも可能である。これらの検査プロトコルは、療養施設や検査統括機関などで異なり、感染リスクに即したプロトコルの作成が望まれる。  本演題では、ICXCUの仕様から、車内で実施されるエックス線検査の感染防護プロトコルの詳細を示す。
    • S6-4
      超音波診断装置の消毒方法に関するガイドライン調査

      新田尚隆

      (国)産業技術総合研究所健康医工学研究部門医療機器研究グループ

      医療現場で使用される、患者に接触する医療機器に対しては、これまでも感染症対策としてのガイドラインが各所より出されてきたが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行に伴い、コロナ禍において接触医療機器を介した感染から患者と医療従事者を守るための消毒方法に改めて関心が寄せられている。本発表では、患者接触機器の一例として超音波診断装置と付属する超音波プローブを取り上げ、コロナ禍での消毒方法に関するガイドラインの調査について述べる。American Institute of Ultrasound in Medicine (AIUM)は、プローブの用途に応じた洗浄及び消毒方法に関するガイドラインを提言しており、またWorld Federation for Ultrasound in Medicine and Biology (WFUMB)のガイドラインでは、超音波診断装置本体の消毒方法や、超音波プローブの洗浄及び消毒方法が提言されている。その一方、WFUMBガイドラインでは、メーカー推奨の消毒方法がベースになると述べられている。日本超音波医学会では、WFUMBとAIUMの各ガイドラインの和訳版をホームページに掲載するとともに、プローブの消毒に関するメーカー情報へのリンク先を掲載し、医療従事者への情報提供を行っている。
    • S6-5
      医療現場における感染対策としての換気と空気清浄化 ~レントゲン車における実施例~

      篠原直秀1)、三澤雅樹1)

      1 産業技術総合研究所

      医療現場における換気と空気清浄化について、試作したレントゲン車を例にして紹介する。
    • S6-6
      エックス線診療車 へのエアロゾルフィルタによる感染対策

      達晃一1,2)、篠原直秀2)、岩井彩3)、栗原昇3) 橋本秀直1)、三澤雅樹4)、内藤航2)

      1いすゞ自動車㈱ 2産業技術総合研究所 安全科学研究部門 リスク評価戦略グループ 3産業技術総合研究所 計量標準総合センター工学計測標準研究部門 気体流量標準研究グループ 4産業技術総合研究所 健康医工学研究部門 人工臓器研究G

      エックス線診療車における新型コロナ対策感染の一環として、現状の空調設備をそのまま利用可能なエアロゾルフィルタによるウイルス感染対策を実施した. 今回我々が用いたフィルタは、0.3-0.5μmの粒径のエアロゾルを捕集できるフィルタであり、空調設備の特別な改造を必要としないことが大きな特徴となっている.  このエアロゾルフィルタは既に公共交通機関の路線バス用として開発を行い、商品化を完了している技術をエックス線診療車に展開した内容を報告する.
    • S6-7
      風速の高精度測定に基づく気流制御技術を用いた区域分け効果の検証

      岩井彩1)

      産業技術総合研究所

      診察室など室内空間で勤務する医療従事者のウイルス感染リスクを低減させる技術の一つとして、室内空間における気流制御技術が注目されている。これは、ウイルス感染が疑われる患者周囲の汚染された空気が空間全体に拡散しないように、あるいは医療従事者がウイルスを含まない清潔な空気中に滞在できるように、室内の気流を用いて区域分け(ゾーニング)する技術である。気流制御技術を用いたウイルス感染症対策製品は、対象とする空間の規模や使用用途に応じて様々な製品が開発されており、普及が進んでいる。また、室内空間における換気の指標として一般的に用いられる風量[m3/min]は、ダクトなど空間内の特定の場所に設置される風量センサで測定するため、空間内の給排気の構造が単純な空間において有効である。一方で、複雑な形状の空間や空間内を人が移動するような気流の乱れが生じる条件においては、風量は空間内の局所的な空気のよどみを評価することができない。このような場合は、風量の単位時間単位断面積あたりの微分値である風速[m/s]で評価する必要がある。 我々のグループでは,風速1.0 m/s以下の微風速域における風向を含めた高精度な風速測定技術を活用し、ウイルス感染症対策製品を設置した室内空間における風速分布測定に取り組んでいる。風速測定結果から室内気流の状態を詳細に検証することによって、感染リスク低減に貢献する簡便かつ有効なゾーニング技術の構築に貢献できると考えている。本講演では、気流制御技術によるウイルス感染症対策が施されたX線検診車内の風速分布を測定した結果を紹介する。
  • 9/4/17:00-18:10

    シンポジウム7

    座長

    大塚 健三中部大学

    • S7-1
      これからのハイパーサーミアに向けた研究のトピックス-免疫療法との併用を中心に-

      高橋 豊

      大阪大学大学院 医学系研究科 生体物理工学講座

       ハイパーサーミア (HT)の研究の歴史は古く、1970年代から盛んにおこなわれてきた。HTは正常組織では熱を逃しやすく、腫瘍では熱を蓄積するため、腫瘍を殺傷できると考えられている。さらに、化学療法や放射線との併用では抗腫瘍効果を増強することが知られている。特に、放射線感受性とHT感受性は、細胞周期依存性など、お互いの特性を補完しあう形で殺細胞効果を高めることが可能となる。また、従来型のHTは深部局所加温が困難であったことなどから、臨床応用に限界があったが、最近は様々な原理に基づく技術の登場により、膵臓癌などの体深部の難治性腫瘍に対してもHTと放射線、化学療法を併用する臨床試験も開始されている。  HTは放射線治療や化学療法の増感だけでなく、免疫賦活効果があることも知られており、抗腫瘍免疫に及ぼす影響も盛んに研究されている。HTの免疫賦活効果の主なメカニズムは、熱ショックタンパク(HSP)であり、腫瘍から放出される抗原と複合体を形成し、樹状細胞の活性化に寄与し、結果としてT細胞への抗原提示を促進すると考えられている。また、放射線と併用することにより、腫瘍細胞の免疫原生死も誘導されることが報告されている。しかし、これまでにHT単独療法またはHTと放射線の併用療法で抗腫瘍免疫が活性化され、それが遠隔転移抑制にまで寄与することを示すエビデンスはない。一方、近年のマウスモデルを用いた実験で、免疫チェックポイント阻害剤 (ICI)と放射線療法の併用により、治療部位と離れた部位の抗腫瘍効果(アブスコパル効果)が高率に得られることが明らかになってきているが、最近、HTとICIの併用でも同様なことが起こることが明らかになりつつある。  本講演では、抗腫瘍免疫に着目し、HT、放射線、ICIの関係について議論したい。
    • S7-2
      同所性ヌードマウスモデルにおける腹膜播種に対する磁性体ナノ粒子を用いた温熱療法

      松三雄騎1)、香川哲也1)、矢野修也1)、田澤大1)、重安邦俊1)、武田正1)、大原利章1)、青野宏通2)、Robert M.Hoffman3)、藤原俊義1)、岸本浩行1)

      1岡山大学大学院医歯薬学総合研究科、2愛媛大学大学院理工学研究科、3AntiCancer, Inc, San Diego

      磁性ナノ粒子(MNP)と交流磁場(AMF)を組み合わせた磁気温熱療法(MHT)は、新たながん治療として有望であり、今までに多くの研究がなされている。そのほとんどは腫瘍組織へMNPを直接注射し行われている。しかし、これまで腹膜播種性疾患をMHT治療したという報告はなく、本研究では胃癌の初期腹膜播種性疾患を模倣する同所性マウスモデルにおいて、MNPとしてカルボキシデキストランでコーティングされた超常磁性酸化鉄(Fe3O4)ナノ粒子(SPION)を使用してMHTで胃癌の腹膜播種を治療した。最適なサイズのSPIONを腹腔内投与し、AMF(390 kHz、28 kAm-1)に3日ごと4回、10分間印加しMHTを行った。MHT治療3週間後、腹膜播種はAMF単独群や未治療対照群と比較して有意に抑制された。本研究の結果は、MHTが播種性腹膜胃癌の新しい治療選択肢となる可能性を示している。
    • S7-3
      大気圧低温プラズマ負荷によるがん細胞傷害に対する温熱処理の併用効果

      足立哲夫1)

      1 岐阜薬科大学

      近年、大気圧下・常温でプラズマを安定して発生させることが可能となり、この大気圧低温プラズマ(以下、プラズマ)を創傷治癒、止血、がん治療などの医療分野に応用しようとする取り組みが急速に拡大してきた。In vitro実験において細胞にプラズマを負荷する方法としては、細胞培養系に直接照射する「直接法」と、予めプラズマを照射した溶液(培地やリンゲル液など)を細胞に付加する「間接法」があるが、我々は臨床の場への応用を想定し、薬物療法に近い「間接法」にてその効果を検討してきた。ハイパーサーミアは、単独あるいは化学療法や放射線療法と併用することで抗がん効果を発揮・増強することが知られている。そこで本研究では、プラズマ照射酢酸リンゲル液(plasma-activated acetated Ringer’s solution; PAA)のがん細胞への負荷に対する温熱処理の併用効果についてin vitro培養細胞系にて検討した。その結果、温熱処理(42℃での培養)の併用により、がん細胞の細胞内活性酸素産生、ミトコンドリア機能障害、DNA断片化とPARP-1の活性化、細胞内Ca2+レベルの上昇について増強効果が認められた。さらに、細胞傷害の増強はTRPチャネル阻害剤の添加やTRPM2チャネルのノックダウンにより抑制された。以上の結果より、プラズマ誘導性がん細胞傷害は温熱処理との併用により増強されることが明らかとなった。

  • 山本ビニター
    山本ビニター

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